【電子書籍化】氷月の騎士は男装令嬢~なぜか溺愛されています~(旧:侯爵令嬢は秘密の騎士)

「……本当に女の子だったんだね……」

 懐かしい声が後ろから響いた。
 忘れようにも忘れられない、柔らかくて芯があって強く深い王者の響き。
 
 シュテルの声だ。

 ずっと聞きたかった。恋い焦がれていた声だ。夢でいいから聞きたいと、そんなふうに思っていた。
 それなのに、怖い。
 自分の本当の姿を知られるのが怖い。
 振り返れない。失望する顔を見たくない。逃げ出したい。逃げられない。

 ずっと騙し続けて来た罰が、今、下される。

 サクサクと凍える大地の上を踏み進む靴の音。
 真っ直ぐに迷わない足取りで、振り向かない私の横に並んだ。

「ベルン」

 名前を呼ばれるだけで、息が止まる。胸の中で何かが広がって膨らんで、はち切れそうになる。 
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