新米魔女はお嬢様!
泣きますわ!
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「この小籠包うまくできたアル〜!」
「本当だ、すごくおいしいですね。自分が作ったときとは大違いです」
「じゃーアチキの勝ちネ! 哈哈哈!」
「いやぁ負けてしまいました。ははは」
「……いや何を談笑してるんですのーーーー!?!?」
アナベルの渾身のツッコミが、お昼時のミトラル魔法学院に響き渡る!
普段なら絶対にしないことをしたせいで宇宙の法則が乱れ金星の位置が5光年ほどズレた!!
先の陰陽魚冠窃盗未遂事件で出会った謎の中華娘は、執事とめちゃくちゃ仲良くなっていた――
ひとつの机を共有して中華料理を頬張る姿は正に女子高生。
ちなみに彼女、名を玲玲と名乗った。
「なんで昨日の中華女とくっちゃべってるんですの!? 執事コイツの部下に気絶させられてましたわよね!?」
「まあ過ぎたことはいいじゃないですか。お嬢さまに殺されかけたことの方が多いし」
執事は三日に一度は炸裂するお嬢さまの無茶ぶりに身を削りまくっているのだった!
「まぁまぁアナベル〜。ハイ、あ〜ん」
「うるせーーーですわーーー!!!!」
気にも留めずあ〜んを求める玲玲!
拒むアナベル!
「つれないアル〜」
「お嬢さま、そう邪険にするのはどうかと思います。失望しました。地に落ちた小籠包でも食べててください」
「これ私が悪いんですの!?!?」
アナベル四面楚歌である。
執事はアナベルのアレな性格に向き合ってくれるほぼ唯一の存在である。
それを奪われた悔しさや寂しさが、じわじわと涙腺を刺激した。
「……うっ、ううっ……」
ぼろぼろと零れる大粒の涙を拭うこともせず、アナベルは立ち尽くした。執事と小籠包の姿がぼんやりと滲む。
「……お、お嬢さ――」
「うわぁーーーん!!!! 執事の馬鹿ーーーー!!!!」
アナベルは大号泣しながら爆速で教室を飛び出し屋上へ向かった! 精神年齢の幼さに違わぬ泣きっぷりである!!
「アチキが追いかけるアル〜」
玲玲は、お嬢さまを追おうとした執事を視線で制止する。そして、ぴょんこぴょんこと、キョンシーのように跳ねながら教室を出ていった――
残酷で美しい、恋するような笑顔を浮かべながら。