ロマンティシズム
「先生、今どこですか? あの、ケーキ、ケーキなんですけど」

『なんだよ。落として潰しでもしたか?』

 なんですか、その発想。なんでそんな最悪の私。

「違います、まだもらってないです。えっとですね、フレーバーが五種類あって、選ばなきゃなんです。えっとですね、ショコラとマロンクリームと、ピスタチオと、え、と……」

 忘れた。

雪野は電話の向こうに神経を集中させながら、ぎこちない動きでショーウィンドウの見える位置へと移動する。

とたとたとた、と。

『味なんかなんだっていいよ。適当に選んでもらってこい』
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