ロマンティシズム
 ヘッドフォンをずらしながら、相当に興奮気味だ。手は続いて斜めにかけたカバンの中へ。

音楽発生源のスイッチを切りたいのだが、視線を彼から離そうとしないために、どうにももたもたしてしまっていた。

ちらりとそちらに目を運び、彼はなにを思ったか。運命発言に対してはノーコメント。

興奮も些かたりともうつされず、あくまでクールに、彼の番。

「ものすごい荷物だな」

「ハイ。お買い物です。いろいろと。冬物、買ってしまいました」

 もう安いんですよー、とショップバッグをいくつも提げた娘は言う。

彼は鼻で笑った。どうでもいいからだ。

返ってくる答など必要ともしないのに、そんな言葉を発した自分がおかしかった、というのもある。

彼女は邪気ない笑いで見上げた。

そんな反応をされることなら予想の範囲。こちらはどうでもいい会話でも楽しい。だから自然な笑みがこぼれていた。
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