ロマンティシズム
 その沈黙が醸し出す言葉の数々を、恐らく弟子は正確に汲み取ったことだろう。

だから瀬戸がふい、と顔を背けた時、放り出されたと感じ、ケーキの袋を受け取りながら、オネエサンに「ありがとう」と微笑みかけたそれを、当て付けだと思ったりしたのも、正しい。
はずだ。

 行きずりの店員であれば、微笑みかけてもらえるわけだ。

世の不条理などを身に沁みさせながら、雪野は慌てて足を動かす。

さっさと人波に漕ぎ出していた、瀬戸を追いかけて。

「おつかい一人でできないですか、雪野チャンは」

 どちらに向かっているのかは知らないが、とりあえず付いていく。

行列から遠ざかり、人々は流れるばかりとなった道に出たところで、そんな厭味が降ってきた。
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