ロマンティシズム
 冬らしい灰色の空を背景に、灰色の校舎が聳えている。

三年と八ヶ月弱、巣にしてきた学舎。
見慣れすぎた。

そして、本日の目的地でもあった。

のつもりだった。
瀬戸が誘ってくれるまで。

膝の力が抜けそうだ。


「荷物、忘れてないな」

 ロックをかけながらその男は言う。

振り向いた雪野は、サイドミラーに映る自分の恨めしげな顔を見た。

史上最高の恨めしげ、だ。

「えぇ、全部。全部持ちましたです。忘れてないです。こんなに呆然としてるけど」

「呆然なのは構わないが、荷物は落とすなよ。おまえの方にワインが入ってる」

「うん……ですね。めちゃくちゃ重いです」
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