ロマンティシズム
 雪野の片想いと攻撃姿勢は、瀬戸の鉄壁防御姿勢とともに、ゼミに関わる人間であれば知らないものなどないのだ。

愉快なパーティの開始前に、まずは愉快なネタを提供してしまった。

ツカミだ。

ツカんでどうする。


 確かに捨て身のキャラなのかも……。

袋の痕の残った手首を、さすりながら思うのだった。

あぁいったい、あの幸せはなんだったのか。


 雪野は瀬戸に視線を運ぶ。

わらわらと動き回る学生たちの向こう。窓際に――移動した。

窓を開く。
古い校舎の古い窓を押し上げて。

あ。
そうか、タバコ。


煙が、暗い空にと上がっていく。
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