あたしの初恋~アイドルHinataの恋愛事情【5】~
01 初恋サマー。
もうすぐ、11月も終わり。
ようやく足になじんできたブーツをかぽかぽと鳴らしながら、あたしは最近よく行く『カエルのお店』に向かってた。
汐音がね、なんかそのお店で汐音の仲良し(あたしも、最近仲良しになった)の水谷サンって人が誘ってくれたパーティーがあるんだけど。
当日、汐音は遅くなるから、『あんたが一人でも行けるように』って、ちょっと前からよく一緒に行ってて、忘れないようにって思って、汐音がいない日でも時間があればよく行ってる。
……あ、汐音っていうのはね、SHIOっていう名前で活動してる、あたしが組んでるユニット『Andante』の片割れなんだけど。
本名は須藤汐音っていうの。あたしより3つ年上だから、汐音は諒クンと同い年だね。
あ、諒クンといえば、明日は諒クンの誕生日だなぁ。そろそろするのかなぁ、プロポーズ。
道坂サンの誕生日知らないみたいだし、知ってたとしても、たぶんあの諒クンだから、自分の誕生日とかに言いそうだよね。
自分キジュンの人だから。
諒クンってば、ホント道坂サンのこと好きなんだよね。まぁ、なんとなくわかるけど。
道坂サンがギリのオネーサンだったら、あたしもうまくやっていけそーな気がする。
なんかね、道坂サンって、テレビでは『ヨゴレ』な感じのキャラなんだけど、プライベートではフツーの人なんだよね。
悪い意味じゃなくって、良い意味で、フツー。
諒クンも、仕事ではあんなアイドルのオーラばりばりなんだけど、家ではフツーだしね。
……ま、それはたぶんあたしも同じことなんだけど。
あの二人が一緒にいるところをよく見かけるけど(あたしは諒クンと同じマンションに住んでるからね)、道坂サンと一緒にいるときの諒クンは幸せオーラ発し過ぎ。妹として、あれは見ててハズイ。
あれで、ネツアイ報道とかされてないんだから、フシギ。
っつーか、オカシイっすよ。マジで。
「……あ、あったあった。カエルのお店っ」
ここはお店の名前とかどこにも出てないから、確かにあたし一人で地図だけ持たされても、ゼッタイたどり着けないと思う。
……っつーか、もしこのカエルがいなくなってたら、何度か来たあたしだってきっと通り過ぎちゃうと思う。
ケロ一号・二号・三号は、きょうも元気にお客さんにごあいさつ。ごくろーさまです。
あたしは、ケロたちに深々とおじぎをして(あ、もちろん置き物だってわかってるよ?)、お店のドアを開けた。
「水谷サァン、こんっちはぁ!!」
あたしはいつもみたく、明るく元気にあいさつした。
『明るく元気にごあいさつ』は、やっぱアイドルのキホンっしょ?
「なーこちゃん! よかった、来てくれたのね!」
水谷サンが、笑顔でお出迎えしてくれた。
……あ、男の人が二人いる。この人たちも、いま来たところかな?
「そりゃぁ、来ますよっ!あ、SHIOは少し遅れるんで……」
あたしが水谷サンに、向かって言うと、あたしの前にいたその男の人二人がゆっくりと振り返った。
――――ええええええ!?
あたしの顔を見て驚いてピシッと固まっちゃったのは。
あたしのアニ、『高橋諒』もショゾクする超大手男性アイドル事務所の、国民的アイドルグループ『Hinata』。
……の、『中川盟』サンと、『樋口直』サン。
ぶっちゃけ、カンタンに言ってしまうと、諒クンの仕事仲間である、盟にぃと、直にぃ。
あたしの……あたしの……、『初恋の人』だぁぁぁ!!
あたしが、『初恋の人』に初めて出会ったのは、いまから13年前の夏。
あたしは、そのときまだ小学6年生だった。
「奈々子! 出かけるでぇ!!」
事務所に呼び出されていたはずの諒クンがトツゼン家に帰ってきたかと思うと、いきなりタンスをガバッと開けて、諒クンとあたしの服を、大きなカバンに詰め込み始めた。
「出かけるって……どこにぃ?」
「東京や、東京!! 希さんに、今すぐ来いって言われてん!!」
「ノゾムサン? ……誰?」
「そんな突っ立ってないで、はよ支度せぇ! おまえは、自分と俺の勉強道具をカバンにまとめてくれ!」
「……なんやの、わけわからんのやけど」
とりあえず、あたしは諒クンに言われるまま、勉強道具をカバンに入れて、わけのわからないまま、諒クンと一緒に東京へ向かった。
「やぁ、高橋。突然でゴメンネ」
事務所の上の方にある部屋に通された諒クンとあたしを待っていたのは、あたしと同じくらいか、年下かもしれない男のコだった。
「希さんの『突然』には慣れてるからええけど……。何かあったんですか?」
と、諒クンが男のコに聞いた。
……ってことは、この男のコが諒クンを呼び出した『ノゾムサン』ってことや。
うーん……、なんで諒クン、こんな男のコに敬語なんかつかってんのやろ?
「見つけたんだよ、やっと。3年近くも探し回って、ようやく見つけた。キミらをうまく支えていられる、リーダーに適したパーツをね」
「え……? ってことは、とうとう……?」
「そ。ホント、待たせたね。心の準備は、できてる?」
「心の……準備……」
「…………あ、もしかして、カノジョのこと?」
「ううぅぅーん……」
「別に、『別れろ』とかは言わナイよ? バレなきゃイイんだし、もしバレたって、ボクがなんとかするし」
「………………」
諒クンが考えこんでいると、部屋のドアがガチャッと開いて、男の人がふたり、入ってきた。
たぶん、諒クンより年上っぽい。ってことは、高校生?
なんか、このふたりのオニーサンといい、希クン(あたしと同い年くらいだから、こう呼んでもいいよね?)といい、結構カッコイイやん。
……って、みんなこの事務所の人なんだから、トーゼンか。
よくわかんないけど、なんかみんなムズカシイこと話し始めた。
どうやら、諒クンとこのふたりのオニーサンの3人で、デビューするらしい。
「……ちょっ……ちょっと待てよ! デビューって……俺がか!?」
(たぶん)一番年上のオニーサンが、ビックリしてるみたいで何か言ってる。
あたし、その様子をみんなからちょっと離れたとこにあるイスに座って見てたんだけど。
急に目の前の空気がスパーンッと変わったみたいになった。
いま、希クンに向かってずっと怒鳴るみたいにまくし立ててる、一番年上のオニーサン。
……の隣にいる、もうひとりのオニーサン。
が、あたしの方をみて、ニコッと笑った。
―――――『……大丈夫。怖くないよ』
そんな声が聞こえてきた。
……それが、あたしの『初恋』のシュンカンだった。
ようやく足になじんできたブーツをかぽかぽと鳴らしながら、あたしは最近よく行く『カエルのお店』に向かってた。
汐音がね、なんかそのお店で汐音の仲良し(あたしも、最近仲良しになった)の水谷サンって人が誘ってくれたパーティーがあるんだけど。
当日、汐音は遅くなるから、『あんたが一人でも行けるように』って、ちょっと前からよく一緒に行ってて、忘れないようにって思って、汐音がいない日でも時間があればよく行ってる。
……あ、汐音っていうのはね、SHIOっていう名前で活動してる、あたしが組んでるユニット『Andante』の片割れなんだけど。
本名は須藤汐音っていうの。あたしより3つ年上だから、汐音は諒クンと同い年だね。
あ、諒クンといえば、明日は諒クンの誕生日だなぁ。そろそろするのかなぁ、プロポーズ。
道坂サンの誕生日知らないみたいだし、知ってたとしても、たぶんあの諒クンだから、自分の誕生日とかに言いそうだよね。
自分キジュンの人だから。
諒クンってば、ホント道坂サンのこと好きなんだよね。まぁ、なんとなくわかるけど。
道坂サンがギリのオネーサンだったら、あたしもうまくやっていけそーな気がする。
なんかね、道坂サンって、テレビでは『ヨゴレ』な感じのキャラなんだけど、プライベートではフツーの人なんだよね。
悪い意味じゃなくって、良い意味で、フツー。
諒クンも、仕事ではあんなアイドルのオーラばりばりなんだけど、家ではフツーだしね。
……ま、それはたぶんあたしも同じことなんだけど。
あの二人が一緒にいるところをよく見かけるけど(あたしは諒クンと同じマンションに住んでるからね)、道坂サンと一緒にいるときの諒クンは幸せオーラ発し過ぎ。妹として、あれは見ててハズイ。
あれで、ネツアイ報道とかされてないんだから、フシギ。
っつーか、オカシイっすよ。マジで。
「……あ、あったあった。カエルのお店っ」
ここはお店の名前とかどこにも出てないから、確かにあたし一人で地図だけ持たされても、ゼッタイたどり着けないと思う。
……っつーか、もしこのカエルがいなくなってたら、何度か来たあたしだってきっと通り過ぎちゃうと思う。
ケロ一号・二号・三号は、きょうも元気にお客さんにごあいさつ。ごくろーさまです。
あたしは、ケロたちに深々とおじぎをして(あ、もちろん置き物だってわかってるよ?)、お店のドアを開けた。
「水谷サァン、こんっちはぁ!!」
あたしはいつもみたく、明るく元気にあいさつした。
『明るく元気にごあいさつ』は、やっぱアイドルのキホンっしょ?
「なーこちゃん! よかった、来てくれたのね!」
水谷サンが、笑顔でお出迎えしてくれた。
……あ、男の人が二人いる。この人たちも、いま来たところかな?
「そりゃぁ、来ますよっ!あ、SHIOは少し遅れるんで……」
あたしが水谷サンに、向かって言うと、あたしの前にいたその男の人二人がゆっくりと振り返った。
――――ええええええ!?
あたしの顔を見て驚いてピシッと固まっちゃったのは。
あたしのアニ、『高橋諒』もショゾクする超大手男性アイドル事務所の、国民的アイドルグループ『Hinata』。
……の、『中川盟』サンと、『樋口直』サン。
ぶっちゃけ、カンタンに言ってしまうと、諒クンの仕事仲間である、盟にぃと、直にぃ。
あたしの……あたしの……、『初恋の人』だぁぁぁ!!
あたしが、『初恋の人』に初めて出会ったのは、いまから13年前の夏。
あたしは、そのときまだ小学6年生だった。
「奈々子! 出かけるでぇ!!」
事務所に呼び出されていたはずの諒クンがトツゼン家に帰ってきたかと思うと、いきなりタンスをガバッと開けて、諒クンとあたしの服を、大きなカバンに詰め込み始めた。
「出かけるって……どこにぃ?」
「東京や、東京!! 希さんに、今すぐ来いって言われてん!!」
「ノゾムサン? ……誰?」
「そんな突っ立ってないで、はよ支度せぇ! おまえは、自分と俺の勉強道具をカバンにまとめてくれ!」
「……なんやの、わけわからんのやけど」
とりあえず、あたしは諒クンに言われるまま、勉強道具をカバンに入れて、わけのわからないまま、諒クンと一緒に東京へ向かった。
「やぁ、高橋。突然でゴメンネ」
事務所の上の方にある部屋に通された諒クンとあたしを待っていたのは、あたしと同じくらいか、年下かもしれない男のコだった。
「希さんの『突然』には慣れてるからええけど……。何かあったんですか?」
と、諒クンが男のコに聞いた。
……ってことは、この男のコが諒クンを呼び出した『ノゾムサン』ってことや。
うーん……、なんで諒クン、こんな男のコに敬語なんかつかってんのやろ?
「見つけたんだよ、やっと。3年近くも探し回って、ようやく見つけた。キミらをうまく支えていられる、リーダーに適したパーツをね」
「え……? ってことは、とうとう……?」
「そ。ホント、待たせたね。心の準備は、できてる?」
「心の……準備……」
「…………あ、もしかして、カノジョのこと?」
「ううぅぅーん……」
「別に、『別れろ』とかは言わナイよ? バレなきゃイイんだし、もしバレたって、ボクがなんとかするし」
「………………」
諒クンが考えこんでいると、部屋のドアがガチャッと開いて、男の人がふたり、入ってきた。
たぶん、諒クンより年上っぽい。ってことは、高校生?
なんか、このふたりのオニーサンといい、希クン(あたしと同い年くらいだから、こう呼んでもいいよね?)といい、結構カッコイイやん。
……って、みんなこの事務所の人なんだから、トーゼンか。
よくわかんないけど、なんかみんなムズカシイこと話し始めた。
どうやら、諒クンとこのふたりのオニーサンの3人で、デビューするらしい。
「……ちょっ……ちょっと待てよ! デビューって……俺がか!?」
(たぶん)一番年上のオニーサンが、ビックリしてるみたいで何か言ってる。
あたし、その様子をみんなからちょっと離れたとこにあるイスに座って見てたんだけど。
急に目の前の空気がスパーンッと変わったみたいになった。
いま、希クンに向かってずっと怒鳴るみたいにまくし立ててる、一番年上のオニーサン。
……の隣にいる、もうひとりのオニーサン。
が、あたしの方をみて、ニコッと笑った。
―――――『……大丈夫。怖くないよ』
そんな声が聞こえてきた。
……それが、あたしの『初恋』のシュンカンだった。