名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~
第3話 河童の役目
興味深い人間だった。
だが、ただの人間ではない。あの界隈をぬらりひょんの次に牛耳っていると言っても過言ではない、座敷童子の真穂が加護についているだけでなく。
名古屋より少し離れた界隈に属する、覚の御大の遠い血縁。
実際に出会って、たしかに霊力の膨大さと質には圧倒されたのだが。笑顔が愛らしい、人間にしては美しい部類に入る女人。
猫人であり、元地獄の補佐官だった火坑とも似合いだった。将来、もし子を成せばどんな容姿になるか楽しみではあるが。彼は人間にも化けられるので、そちらに寄るかもしれない。
とりあえず、河童の水藻は飲み過ぎたがいい気分で界隈を歩いていた。
「はぁ〜〜、楽しかった。いい人だったなあ?」
友人の人魚を紹介したいと約束もしたから、また会える。水藻は山の神の使いでもあるので、常なら山の中にいるのだが。
年の瀬になると、界隈を通じて神行脚することが増えてくる。だから、使いである水藻達のような妖が、その道しるべを作るのだ。
毎年決まってこの時期、新しく新調させて。
今日は夜半を過ぎてからの予定だったので、水藻はふらふらだが気合を入れて道しるべを張っていくのだった。
「おーい、水藻ー?」
張り終えたら、タイミングを伺ってきたかのように。聞き覚えのある声が水藻に届いてきた。
「あ、千夜」
「あ。じゃないよ? ふらふらしてるって、通りの知り合いに聞いたぞ? 今日そんなに飲んだの?」
薄水色のサラサラとした長い髪。
水藻とは違い、人間のように透き通った白い肌。あの湖沼美兎以上に美しい顔。
美兎に話していた、河の人魚だ。人化してこの界隈に降りてきたのかもしれない。
「どうしたのー?」
「お役目には僕も参加するだろう? 何勝手に始めてんのさ」
「あ、ごめん」
アマビエの人気上昇に、ついつい前半は楽庵で自棄酒をしてしまったものだ。だが、同じ水の妖なのに、人魚の千夜には嫉妬心を抱かない。それだけ付き合いが長いからだろう。
「もういいよ。酔っ払ってても仕事が出来てるようだし。で、どこの店で飲んできたのさ?」
「楽庵ー」
「あ、いいな! 今度は僕も行く!」
「あのねー? 大将さんの恋仲の人に会えたんだー?」
「え、なにそれ。詳しく!?」
そして、山へと帰る道中に、美兎のことを説明することにした。
「可愛かったよー?」
「覚の御大の御子孫……加えて、真穂様の守護。とんでもない人間に会ったんじゃん!?」
「あ、君を紹介したいって言っちゃった」
「僕を!? なんで!?」
「君が僕の友達だからー」
「……そーかい」
何故か呆れられてしまったが、酔いも相まってとてもいい気分だった。
年の瀬も間近。いい出会いがあった。
山の神にも伝えようと二人で帰ったら。山の神も烏天狗の翠雨から聞いたと言われ、先を越されたと悔しくなった。
「くくく。儂ら山の神の間でも、彼奴の番となる女子のことは耳にする機会が多い。水藻、機会が合ったとは言え良かったの?」
「は、はい!」
「山の神の皆様方が興味を持つ人間……僕、今度お前が楽庵行く時についてく!」
「あ、そうそう。年明けに行くって言っといたよ?」
「よし、行く!」
「……儂も行きたいのぉ」
「御主神様はダメです! お土産買ってきますから!!」
「……あいわかった」
たしかに、山は山でもここは濃尾平野に連なる山々だ。
御神体が山そのものなので、化身である神が下手に動けば。地震災害どころでは済まなくなるくらいの、大災害になる恐れがある。
なので、千夜が言ったように我慢させるしかないのだった。
だが、ただの人間ではない。あの界隈をぬらりひょんの次に牛耳っていると言っても過言ではない、座敷童子の真穂が加護についているだけでなく。
名古屋より少し離れた界隈に属する、覚の御大の遠い血縁。
実際に出会って、たしかに霊力の膨大さと質には圧倒されたのだが。笑顔が愛らしい、人間にしては美しい部類に入る女人。
猫人であり、元地獄の補佐官だった火坑とも似合いだった。将来、もし子を成せばどんな容姿になるか楽しみではあるが。彼は人間にも化けられるので、そちらに寄るかもしれない。
とりあえず、河童の水藻は飲み過ぎたがいい気分で界隈を歩いていた。
「はぁ〜〜、楽しかった。いい人だったなあ?」
友人の人魚を紹介したいと約束もしたから、また会える。水藻は山の神の使いでもあるので、常なら山の中にいるのだが。
年の瀬になると、界隈を通じて神行脚することが増えてくる。だから、使いである水藻達のような妖が、その道しるべを作るのだ。
毎年決まってこの時期、新しく新調させて。
今日は夜半を過ぎてからの予定だったので、水藻はふらふらだが気合を入れて道しるべを張っていくのだった。
「おーい、水藻ー?」
張り終えたら、タイミングを伺ってきたかのように。聞き覚えのある声が水藻に届いてきた。
「あ、千夜」
「あ。じゃないよ? ふらふらしてるって、通りの知り合いに聞いたぞ? 今日そんなに飲んだの?」
薄水色のサラサラとした長い髪。
水藻とは違い、人間のように透き通った白い肌。あの湖沼美兎以上に美しい顔。
美兎に話していた、河の人魚だ。人化してこの界隈に降りてきたのかもしれない。
「どうしたのー?」
「お役目には僕も参加するだろう? 何勝手に始めてんのさ」
「あ、ごめん」
アマビエの人気上昇に、ついつい前半は楽庵で自棄酒をしてしまったものだ。だが、同じ水の妖なのに、人魚の千夜には嫉妬心を抱かない。それだけ付き合いが長いからだろう。
「もういいよ。酔っ払ってても仕事が出来てるようだし。で、どこの店で飲んできたのさ?」
「楽庵ー」
「あ、いいな! 今度は僕も行く!」
「あのねー? 大将さんの恋仲の人に会えたんだー?」
「え、なにそれ。詳しく!?」
そして、山へと帰る道中に、美兎のことを説明することにした。
「可愛かったよー?」
「覚の御大の御子孫……加えて、真穂様の守護。とんでもない人間に会ったんじゃん!?」
「あ、君を紹介したいって言っちゃった」
「僕を!? なんで!?」
「君が僕の友達だからー」
「……そーかい」
何故か呆れられてしまったが、酔いも相まってとてもいい気分だった。
年の瀬も間近。いい出会いがあった。
山の神にも伝えようと二人で帰ったら。山の神も烏天狗の翠雨から聞いたと言われ、先を越されたと悔しくなった。
「くくく。儂ら山の神の間でも、彼奴の番となる女子のことは耳にする機会が多い。水藻、機会が合ったとは言え良かったの?」
「は、はい!」
「山の神の皆様方が興味を持つ人間……僕、今度お前が楽庵行く時についてく!」
「あ、そうそう。年明けに行くって言っといたよ?」
「よし、行く!」
「……儂も行きたいのぉ」
「御主神様はダメです! お土産買ってきますから!!」
「……あいわかった」
たしかに、山は山でもここは濃尾平野に連なる山々だ。
御神体が山そのものなので、化身である神が下手に動けば。地震災害どころでは済まなくなるくらいの、大災害になる恐れがある。
なので、千夜が言ったように我慢させるしかないのだった。