名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~
第6話 梅の神社
ああ、良い良い。
いいご縁だった、と小豆洗いの保鳥は軽く酒が入ったので気分が良かった。
まさか、己を導きにして太宰府の御方がご一緒に来られるとは思いもしなかったが。小豆もきちんと届けただけでなく、馳走もいただけたので上機嫌に変わりない。
己は妖なので、それほど多く接点がなかったのだが。まさか、届け先の猫人が御方の元飼い猫だったとは。双方滅多に訪れないので、保鳥は本当に知らずでいた。
だから、あれだけ驚いたのだが。今は道真と火坑だけのはず。積もる話も多いだろう、良い時間を過ごしてほしい。
「さてさて。真穂様に教わった神社にでも行こうかの??」
妖であれば、界隈を練り歩けば自然と望む場所には出られる。その理に従って、神社らしき場所に赴けば。
「おやおや、随分とこざっぱりしたところじゃな?」
冷たい建物に囲まれた、小さな神社。
たしかに、分社ゆえに小さいのは理解はしていたが、ここまで小さいとは。
神主などもいなさそうなくらい、小さい。いくら祀られているのが道真であれ、ここを知らない人間の方が多いだろう。
せっかくなので、枯葉程度を集めていたら。弦が弾く音が聞こえてきた。
「……おや?」
「小豆洗いとは珍しいじゃないかい?」
「! これはこれは!!」
琵琶を持つ美しい男性はわからないが、紋付きの羽織袴を身につけている方の男性には保鳥でもわかった。
粋なつもりか、スーツなどでも着用する機会が減った帽子をかぶっていた彼は、所謂妖の総大将だったのだ。
「はは。そう畏まらずとも良い良い。で、お前はどこの小豆洗いだい?」
「はっ。九州より」
「あそこか。で、ここを掃除……となると、菅公の眷属か?」
「け、眷属などと滅相もございません!!」
「間半殿? 少々困っていますよ? からかうのはほどほどに」
「いやなに? 先客がいたからね?」
「……あの。お二人は何故こちらに??」
すると、琵琶を持つ男性もだがぬらりひょんの間半もにっと口を緩めた。
「僕……というより、こっちの空木に縁がある女の子がいてね? 次に会う時の、花刺しとかに少々お力を借りようかと」
「御人ですかの?」
「いいえ。私の子孫と……我が妻にも会うと言う約束をしましたので、彼女が花刺しを作りたいと言いましてね?」
「で、ここはわずかだが菅公の気が巡る神社だ。だから、梅の力を借りにきたんだよ?」
そうして、間半が本殿に近いところにある梅の枝に触れると。
瞬く間に、この境内が強い梅の香りに包まれた。加えて、紅梅に白梅の花がぽつぽつと咲き乱れて行く。
「……力をお借りしたのですから、私からも返礼を」
空木が爪弾いた琵琶の音と、彼の歌声は。
雑魚妖怪の己ですら、賃金を払いたくなるくらい。美しい音色だった。
さらに、間半も懐に入れていたのか竹笛を取り出して演奏に合わせていた。保鳥は、贅沢過ぎるこの空間に居て、胸が震えそうなくらい感動してしまった。
何も出来ないが、今はただ浸っていよう。
そして、九州の地に戻ったら同じ小豆洗いの仲間や他の妖に自慢しようと決めた。
空木達は長い演奏を終えてから、咲いた梅の枝をいくつか持って行って、神社から去って行った。
「……儂も帰ろうかの?」
電車の時間はとうにないが、界隈を通じれば同じだ。ただし、土産はいくつか買ってから、保鳥は名古屋の地を去ったのだ。
いいご縁だった、と小豆洗いの保鳥は軽く酒が入ったので気分が良かった。
まさか、己を導きにして太宰府の御方がご一緒に来られるとは思いもしなかったが。小豆もきちんと届けただけでなく、馳走もいただけたので上機嫌に変わりない。
己は妖なので、それほど多く接点がなかったのだが。まさか、届け先の猫人が御方の元飼い猫だったとは。双方滅多に訪れないので、保鳥は本当に知らずでいた。
だから、あれだけ驚いたのだが。今は道真と火坑だけのはず。積もる話も多いだろう、良い時間を過ごしてほしい。
「さてさて。真穂様に教わった神社にでも行こうかの??」
妖であれば、界隈を練り歩けば自然と望む場所には出られる。その理に従って、神社らしき場所に赴けば。
「おやおや、随分とこざっぱりしたところじゃな?」
冷たい建物に囲まれた、小さな神社。
たしかに、分社ゆえに小さいのは理解はしていたが、ここまで小さいとは。
神主などもいなさそうなくらい、小さい。いくら祀られているのが道真であれ、ここを知らない人間の方が多いだろう。
せっかくなので、枯葉程度を集めていたら。弦が弾く音が聞こえてきた。
「……おや?」
「小豆洗いとは珍しいじゃないかい?」
「! これはこれは!!」
琵琶を持つ美しい男性はわからないが、紋付きの羽織袴を身につけている方の男性には保鳥でもわかった。
粋なつもりか、スーツなどでも着用する機会が減った帽子をかぶっていた彼は、所謂妖の総大将だったのだ。
「はは。そう畏まらずとも良い良い。で、お前はどこの小豆洗いだい?」
「はっ。九州より」
「あそこか。で、ここを掃除……となると、菅公の眷属か?」
「け、眷属などと滅相もございません!!」
「間半殿? 少々困っていますよ? からかうのはほどほどに」
「いやなに? 先客がいたからね?」
「……あの。お二人は何故こちらに??」
すると、琵琶を持つ男性もだがぬらりひょんの間半もにっと口を緩めた。
「僕……というより、こっちの空木に縁がある女の子がいてね? 次に会う時の、花刺しとかに少々お力を借りようかと」
「御人ですかの?」
「いいえ。私の子孫と……我が妻にも会うと言う約束をしましたので、彼女が花刺しを作りたいと言いましてね?」
「で、ここはわずかだが菅公の気が巡る神社だ。だから、梅の力を借りにきたんだよ?」
そうして、間半が本殿に近いところにある梅の枝に触れると。
瞬く間に、この境内が強い梅の香りに包まれた。加えて、紅梅に白梅の花がぽつぽつと咲き乱れて行く。
「……力をお借りしたのですから、私からも返礼を」
空木が爪弾いた琵琶の音と、彼の歌声は。
雑魚妖怪の己ですら、賃金を払いたくなるくらい。美しい音色だった。
さらに、間半も懐に入れていたのか竹笛を取り出して演奏に合わせていた。保鳥は、贅沢過ぎるこの空間に居て、胸が震えそうなくらい感動してしまった。
何も出来ないが、今はただ浸っていよう。
そして、九州の地に戻ったら同じ小豆洗いの仲間や他の妖に自慢しようと決めた。
空木達は長い演奏を終えてから、咲いた梅の枝をいくつか持って行って、神社から去って行った。
「……儂も帰ろうかの?」
電車の時間はとうにないが、界隈を通じれば同じだ。ただし、土産はいくつか買ってから、保鳥は名古屋の地を去ったのだ。