名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~
第7話 怖いのは
同期が人間じゃなかった。
そのことに、美作辰也は、実は大層驚いていた。
部署が違えど、営業とエンジニア。
お互いに、なくてはならない存在なので同期としてずっと一緒だったからと絡んでは来たが。
まさか、今日いきなり人間じゃないとカミングアウトさせられて、驚かないわけがない。だが、軽蔑しないのも事実だ。
その同期である不動侑は、好物である天丼の残りにがっついていた。よく一緒に昼飯を食べに行のと同じように。
彼が好意を抱いた人間の女性に礼を言いに行くのと知り合うきっかけ、を提案したのは他でもない辰也本人だが。言い出してしまったからには、どうしたものかと生ビールを飲みながら思う。
メカクレでなければ、モデル顔負けに美形野郎がどうなってしまうのか。
もう先に帰ってしまった、飲み仲間の湖沼美兎とは同期の、明るくて元気の良い女性。田城真衣と言うらしいが、たった一度助けられただけで惚れてしまうとは。
よっぽど、良い女だったに違いない。
仕事以外に、積極性が天丼以外はほぼ皆無な同期が、無条件なくらいに惚れてしまうだなんて。
辰也は、不動が天丼を食べ終えてから久しぶりに、吸わないでいた煙草を吸おうと店主の火坑に灰皿とライターを借りた。
「……かなり、珍しいな?」
食べ終えてから、不動が声をかけてきた。前髪から少し見えたブルーアイは不安げだった。最初に見た時はハーフか外人かと聞いたが、誤魔化された理由が妖なら納得がいく。妖怪と呼ばれる妖達は、総じて色の配色が人間と違うからだ。
今はサンタクロースと飲み続けている、守護のかまいたち三兄弟も目の色は兄弟揃って緑。店主の火坑も猫らしく水色に近い青だから。
それはさて置き。同期入社だった付き合いから、初期以降は禁煙し出した辰也が再び吸い出したので、驚いたのだろう。
「ま、ちょっと。な?」
「……俺のせいか?」
「……まー……全部じゃねーが。俺結構ビビりだったんだなーって」
「は?」
「慣れたつもりではいたけど。人間じゃねー人達とも交流だなんて、ある意味奇跡だろ? けど、お前もだけど人間食ってた過去がある奴もやっぱりいるんだなーって」
久しぶりの、独特の苦味が口に広がっていく。なんとなく、古い煙草を胸ポケットに入れてただけだったが、残りは後で捨てることにしようと決めた。
「……やっぱり、怖いか?」
「湖沼さんの前では、見栄張ってただけだけど。全部が嘘じゃねーって。ただ怖いだけ」
「ただ?」
「俺、楽庵来るまで。自分が視える人間だなんて知らなかったし、腕に切り傷結構あっただろ? 昔っからだったんで、化けもんに狙われてんのかと勘違いしてた」
「……今は、ないよな?」
「うん。かまいたちの兄さんのお陰。あと、あっちにいるかまいたち三兄弟が守護についてくれてんの」
「……それで」
「だから、拒否はしねーけど。怖くなるのは勘弁な? けど、やっぱ不動は不動だ」
メカクレで、表情はわかりにくいが。誠実な奴には変わりない。
煙草の灰を落とさないように、ガシガシと不動の頭を撫で回したら照れ臭そうな表情が少し見えた。
「……なんだよ、それ」
「そのまんまでいーいってこと。てかさ? 田城さんになんか手土産持ってくだろ? どこにすんだ?」
「……rouge。ああいう可愛いの好きそうだから」
「めっちゃ人気の洋菓子店じゃん! 人混み苦手なお前が行けんの??」
「……田城さんのために、頑張る」
「おー」
恋は人を変えるとよく言うが、それは妖かもしれない。
湖沼と恋人関係になった火坑も、にこにことこちらを見ながら料理をしていたし。
「あそこのお菓子は美味しいですからね? 隆輝さんもいらっしゃいますし」
「うん。……だから、大丈夫、だと思う」
「え、火坑さん。あそこにも妖さんがいるの??」
「ええ。美兎さんの先輩さんの彼氏さんがです。赤鬼さんですよ」
「世間狭!?」
美兎と帰って行った、座敷童子の真穂も美兎の兄と付き合い出したと聞いたし。自分もいずれ妖の女性と付き合うんじゃないかと思う、辰也だった。
そのことに、美作辰也は、実は大層驚いていた。
部署が違えど、営業とエンジニア。
お互いに、なくてはならない存在なので同期としてずっと一緒だったからと絡んでは来たが。
まさか、今日いきなり人間じゃないとカミングアウトさせられて、驚かないわけがない。だが、軽蔑しないのも事実だ。
その同期である不動侑は、好物である天丼の残りにがっついていた。よく一緒に昼飯を食べに行のと同じように。
彼が好意を抱いた人間の女性に礼を言いに行くのと知り合うきっかけ、を提案したのは他でもない辰也本人だが。言い出してしまったからには、どうしたものかと生ビールを飲みながら思う。
メカクレでなければ、モデル顔負けに美形野郎がどうなってしまうのか。
もう先に帰ってしまった、飲み仲間の湖沼美兎とは同期の、明るくて元気の良い女性。田城真衣と言うらしいが、たった一度助けられただけで惚れてしまうとは。
よっぽど、良い女だったに違いない。
仕事以外に、積極性が天丼以外はほぼ皆無な同期が、無条件なくらいに惚れてしまうだなんて。
辰也は、不動が天丼を食べ終えてから久しぶりに、吸わないでいた煙草を吸おうと店主の火坑に灰皿とライターを借りた。
「……かなり、珍しいな?」
食べ終えてから、不動が声をかけてきた。前髪から少し見えたブルーアイは不安げだった。最初に見た時はハーフか外人かと聞いたが、誤魔化された理由が妖なら納得がいく。妖怪と呼ばれる妖達は、総じて色の配色が人間と違うからだ。
今はサンタクロースと飲み続けている、守護のかまいたち三兄弟も目の色は兄弟揃って緑。店主の火坑も猫らしく水色に近い青だから。
それはさて置き。同期入社だった付き合いから、初期以降は禁煙し出した辰也が再び吸い出したので、驚いたのだろう。
「ま、ちょっと。な?」
「……俺のせいか?」
「……まー……全部じゃねーが。俺結構ビビりだったんだなーって」
「は?」
「慣れたつもりではいたけど。人間じゃねー人達とも交流だなんて、ある意味奇跡だろ? けど、お前もだけど人間食ってた過去がある奴もやっぱりいるんだなーって」
久しぶりの、独特の苦味が口に広がっていく。なんとなく、古い煙草を胸ポケットに入れてただけだったが、残りは後で捨てることにしようと決めた。
「……やっぱり、怖いか?」
「湖沼さんの前では、見栄張ってただけだけど。全部が嘘じゃねーって。ただ怖いだけ」
「ただ?」
「俺、楽庵来るまで。自分が視える人間だなんて知らなかったし、腕に切り傷結構あっただろ? 昔っからだったんで、化けもんに狙われてんのかと勘違いしてた」
「……今は、ないよな?」
「うん。かまいたちの兄さんのお陰。あと、あっちにいるかまいたち三兄弟が守護についてくれてんの」
「……それで」
「だから、拒否はしねーけど。怖くなるのは勘弁な? けど、やっぱ不動は不動だ」
メカクレで、表情はわかりにくいが。誠実な奴には変わりない。
煙草の灰を落とさないように、ガシガシと不動の頭を撫で回したら照れ臭そうな表情が少し見えた。
「……なんだよ、それ」
「そのまんまでいーいってこと。てかさ? 田城さんになんか手土産持ってくだろ? どこにすんだ?」
「……rouge。ああいう可愛いの好きそうだから」
「めっちゃ人気の洋菓子店じゃん! 人混み苦手なお前が行けんの??」
「……田城さんのために、頑張る」
「おー」
恋は人を変えるとよく言うが、それは妖かもしれない。
湖沼と恋人関係になった火坑も、にこにことこちらを見ながら料理をしていたし。
「あそこのお菓子は美味しいですからね? 隆輝さんもいらっしゃいますし」
「うん。……だから、大丈夫、だと思う」
「え、火坑さん。あそこにも妖さんがいるの??」
「ええ。美兎さんの先輩さんの彼氏さんがです。赤鬼さんですよ」
「世間狭!?」
美兎と帰って行った、座敷童子の真穂も美兎の兄と付き合い出したと聞いたし。自分もいずれ妖の女性と付き合うんじゃないかと思う、辰也だった。