名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

第4話 心の欠片『手羽先のコーラ煮』

 恋人である湖沼(こぬま)美兎(みう)の兄、海峰斗(みほと)

 猫人の姿で会ってみたいと事前に情報があったので、今日は節分兼休日だったから何組かの妖と節分行事をしていたのだ。

 妖なのに、鬼を祓う行事をやるのはどうだと思われるかもしれないが、単純に遊びたいだけだ。妖とて生きているのだから、人間達の遊びを真似したくなる。

 それが仕事となり、界隈で店を開くのも多い。師匠である黒豹の霊夢(れむ)も趣味がこうじて楽養(らくよう)を開けたそうだ。

 今から作るコーラ煮も彼に教わったのだ。


「知っていましたか、海峰斗さん? コーラ煮は今回手羽先で作りますが。豚肉とも合うんです」
「へー! 想像つきにくいけど、火坑(かきょう)さんの料理美味しいし。次食べてみたい」
「ふふ、ありがとうございます」


 最初は、先日の初対面の時のように緊張がかなりあったが。今は酒とスッポン料理のお陰でほぐれてきている。スープはもうすぐ出来るので、火坑は焼いて置いた手羽先に、海峰斗の心の欠片であるコーラを躊躇なく注いでいく。


「あー、肉の焼き目のいい匂いね〜?」


 そして、彼の恋人になった座敷童子の真穂(まほ)。人化の年齢を引き上げたのか、いつもより愛らしい感じだ。海峰斗のためか、今日湖沼の家に挨拶に行くのに年齢を調整したのだろう。


「沸騰したら、キッチンペーパーなどでささっと灰汁を取ります。そこに、鷹の爪と醤油を入れてからアルミホイルでフタをして」


 だいたい十五分煮るので、その間にスッポンのスープを出したら。


「う……っわ! 美兎とか真穂っていっつもこんなすげーの食ってんの!?」


 サービスで、スッポンの頭を入れたら少々驚かせてしまったようだ。


「美味しいわよー? 内臓とかはあんまり無理だけど。肉とか皮とか。コラーゲンたっぷりの甲羅の部分とか」
「……んじゃ、真穂がそう言うなら。……この頭ってどう食べんの?」
「普通にかぶりついて吸い付く感じよ」


 再会してからまだ数日で、付き合いも始まったばかりなのに。まるで、長年連れ添った感じなのが、火坑の目には微笑ましく写った。

 そう言えば、美兎にタメ口とか呼び捨てをしていいか聞かれたのだが。火坑の場合、誰かを呼び捨てする癖とかがほとんどないので、今のままでもいいと思っているのだが。

 もう少し、彼女の懐に手を伸ばしていいのなら。少し、考えたかった。


「さ、いい具合です。出来立ての手羽先のコーラ煮をどうぞ」


 盛り付けてから二人の前に出せば、真穂もだが海峰斗も声を上げたのだった。


「すっげ! 美味そう!」
「豚もいいけど、鳥もいいわねー? 手掴みの醍醐味よ!」
「うん、食べよ!」


 スープはまだ途中だったので、火坑は洗い物をしながら二人の食事を覗くことにした。ものによるが、一人で切り盛りしているので今風に食洗機を使っている。

 軽く濯いでから、食洗機に入れたり。ぬるま湯で浸しておくのと分けたりするのだ。


「ふま!」
「甘辛くて美味しい! 鷹の爪効いてるわよ、火坑!」
「ふふ、お粗末様です」


 この時間だと、他の客が来てもおかしくはないが。真穂が伴侶を連れているからと控えているかもしれない。妖デパートの鏡湖(かがみこ)の役員であり、大妖怪の一角であり、人間としては売れっ子の小説家。

 おそらく、だが。美兎もそのことを今日知ったはずだ。


「へー? コーラって飲むもんだけじゃなかったんだ? 料理に使えるって意外」
「海峰斗さんは……美容師さんですよね?」
「うん。他にもメイクとかしてあげっからスタイリストだけど」
「化粧品にお詳しいのであれば、炭酸水を使うのはご存知ですよね?」
「うん? 肌がもちもち……あ、そっか?」
「おそらく正解です。豚肉だと圧力鍋で作ることが多いですが、炭酸水もしくはコーラを使うと成分の関係で肉が柔らかくなるんです」
「なーるほど」


 酒が無くなったので、生ビールを追加した海峰斗は完全に酔う前に真穂と一緒に帰っていった。今日は真穂の居住地で泊まるのだそうだ。

 少し、羨ましい。と感じたのは。初詣でもだが、美兎となかなかデート出来ていないからだろう。

 仕事がもうひと段落ついたら、スマホで連絡しようと思ったら。

 新たな客がやってきたのだ。


「大将さーん! 正月ぶりー!!」
「こ、こんばんは……」


 山の神の使いである、河の人魚と河童。

 予定より少し早いので、どうしたのかと気になったのだった。
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