名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

第2話 期待と期待

 祖先に会える。

 美兎(みう)はバレンタイン直前のその日が、待ち遠しかった。

 あちらの都合で日程が何回か変わったりしたが、美樹(みき)と言う美兎そっくりの祖先と会うのは本当に楽しみだった。

 どれだけ似てるのか。

 顔が、声が。

 まるっきり瓜二つとまではいかないだろうが、世の中の言葉には『覚醒遺伝』と言うこともある。だから、美兎が彼女に似ているのかもしれない。

 仕事をこなし、休憩時間になると。LIMEの通知音が鳴り、珍しく美作(みまさか)からの連絡だった。


「…………不動(ふどう)さんのかあ」


 忘れていたわけではないが、先月末に相談を持ちかけてきた火車(かしゃ)風吹(ふぶき)こと不動(ゆう)

 美兎の同期であり、彼が想いを寄せている相手。田城(たしろ)真衣(まい)に謝礼をした上で知り合いたいと言った件。

 いきなり、界隈にある楽庵(らくあん)は難しいので。久屋大通(ひさやおおどおり)の適当な店を見繕うから、日程の候補を教えてほしいと言われたのだ。

 さて、このことを田城にどう伝えるべきか。

 いきなり、飲み会で再会となると、この前のように騒がないか。いや、絶対騒ぐだろう。とは言え、美作の提案を無視出来ないので休憩に行こうとした真衣の後を追った。


「…………え? 美兎っちの飲み友達さんと、あの人が同期!?」


 今日は姿を見せていない、三田(みた)のいない屋上の休憩スペースに移動してから打ち明けたのだ。


「うん。私もちょっとだけ会ったんだけど……先に帰ったからこの提案は知らなかったんだ」


 半分嘘だが、とは言えないが。

 それはともかく、真衣は目を潤ませながら手にしてたコンビニのおにぎりを握りしめそうになっていた。


「〜〜! 会える!? あの人に会えちゃうの!!?」


 美兎の嘘には気づかず、喜んでダンスでも踊りそうな雰囲気にはなっていた。とりあえず、昼飯を潰すなと告げたらもそもそと食べだした。今日のおにぎりは高菜明太らしい。


「落ち着いて? あ、名前は不動侑さんだって」
「ふどう……?」
「漢字は、ほら? 不動産の不動」
「おお! かっけー! 歳とか聞いてる??」
「えっと……二十六歳?」
「超タイプ!!」


 あちらも真衣を想っていると知ったら、どうなってしまうのか。美兎の口から言うべき言葉ではないので言わないが。

 とりあえず、日程だ。


「いつにする?」
「そだね? 今日はさすがに無理だろうし……飲み会とかの予定はあんまないから、平日だったらどこでもいいよー?」
「私は今日ちょっと用事あるし。バレンタイン前は沓木(くつき)先輩と一緒に用事あるし」
「何すんの?」
「……秘密って言われてる」
「えー?」


 妖と交えてバレンタインチョコ作りとは、流石に言えないのでここは濁すしか出来ない。

 とりあえず、来週の木曜あたりにアポイントをかけてみたら、美作からすぐに大丈夫だと返信が来た。風吹は大丈夫かと心配にはなったが。

 矛盾はしてても、人と関わるのが好きで人間社会にいるのなら、満員電車のような人混みでなければ大丈夫だとは思う。


「大丈夫だって」
「よーし! じゃ、私バレンタインチョコの練習してみる!!」
「え、まさか」
「ダメ元でも告白するぅ! こんなチャンス滅多にないもん!!」
「……頑張って」


 クリスマス前に多少沓木に教わったから大丈夫だとは思うが。

 失敗の連続でないことを祈るしか出来なかった。
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