名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

第4話『薔薇のチョコクッキー』②

 作った薔薇のチョコクッキーは。

 焼き上がったら、艶々で崩れることなくしっかりとなっていた。

 焼き上がり前と、ほとんど形が崩れることなく。しっかりとした花びらが出来ていて。さすがは本職のパティシエ直伝のレシピ。

 隆輝(りゅうき)には改めて、どこかでお礼をしようと決めた。


「あら〜ん? 良い出来栄えじゃなぁい?」


 性別は同じ男でも、オネエで随分と雰囲気が違うものだ。宗睦(むねちか)は目を爛々と輝かせながら、沓木(くつき)が持っている鉄板を覗き込んだ。


「バターを使っていないから、油分は完全にチョコのカカオバターだけね? だから、思ったよりは崩れにくいらしいの」
「さっすが、りゅーちゃんの彼女ちゃんね?」
「それほどでも」
「つ、艶々です……!」
「それは、スキムミルクを混ぜたからなの。ただ味のために混ぜたんじゃなくて、艶出しのためにね?」
「それも、隆輝が?」
「そゆこと」


 今度は人数分の紅茶を淹れている真穂(まほ)が聞けば、沓木はにっこりと笑った。


「あ〜ん! らぶらぶいいわねぇ〜〜!! あ・た・し、も! 彼とらぶらぶしたいわ〜〜!!」
「え……チカ、さん。彼氏? さんがいらっしゃるんですか?」
「そうよ〜ん? 界隈で出会った〜〜」
「前に話した、ダイダラボッチの彼氏がこいつ」
「え??」
「ね、姐さんがダイダラボッチ様と!?」
「? なーに、ダイダラボッチって??」


 重大事項を聞くべく、一人一個はクッキーを食べようとリビングに移動して。

 出来上がった、食べるのがもったいない薔薇の形のクッキーを前に。宗睦の話を聞くことにした。


「ダイダラボッチ……名前は、更紗(さらさ)って言うんだけど。あたしが今のようになる前に出会ったのよん」
「今の?」
「あたし、むかーし昔は結構な荒くれ者だったのよん。人間達で言うとこの……不良とかヤンキー? だったわね?」
「そーね? ここ五十年くらいだったわね? あんたがそーなったの」


 先に躊躇なくクッキーを食べていた真穂は、なんてことのないように言ったのだった。

 つまりは、宗睦は今と昔だと性格も何もかもが違っていたらしく、出会えたダイダラボッチのお陰で今があるそうだ。


「喧嘩どんぱちなんてしょっちゅう。生傷も絶えなかったわ〜〜? そんな時に、この界隈で倒れてるとこを更紗……さっちゃんに助けてもらったの」
「……妖怪でもゲイカップルっているのね?」
「んふふ〜、ケイちゃん先生? 割とオープンよ? あなたとか美兎(みう)ちゃんのように、人間と妖が付き合ってるみたいに。妖同士でも、同性のカップルは昔からちょくちょくいるの」
「東京の新宿二丁目とかじゃないけど。(にしき)でもあんのよ」
『へー?』


 花菜(はなな)も知らなかったのか、真穂の言葉に感心していた。

 ここで、花びらの部分を割って食べてみると。ほろっと口の中で溶けて。チョコの甘さと砂糖の甘さが絶妙な、美味しい美味しいクッキーになっていた。


「美味しいです、先輩!」
「ふふ。成功してよかったわ」
「ほんと! 美味しいわ〜ん。さっちゃんに明日あげてみよ!」
「美味しい……です!」


 バレンタインまであと数日。

 今日のを火坑(かきょう)に渡すわけではないが、前々から準備していたもう一つの品もそろそろ出来上がる。

 だから、二つを一緒に。あの美しい猫人にあげたかったのだ。


「付き合うどうのこうのと言えば、美兎」
「うん?」
風吹(ふぶき)の方は、飲み会以外決まってないの?」
「なになに!? ふーちゃんにとうとう彼女が出来るの!?」
「チカ、ステイ」
「くぅん! じゃ、ないですよ真穂様!?」


 真穂の命令に従って、狐が本性でも犬のようにお座りをしてしまった。

 少し驚いたが、大半の者が笑ったのだった。


「で、どなの?」
「うーん。真衣(まい)ちゃんは自分でバレンタインプレゼント作るとは言ってたけど」
「あら。田城(たしろ)ちゃんも、まさか妖怪を好きになったの?」
「実は……」


 花菜と宗睦はいるが、協力者が増えて悪いことではないので、不動(ふどう)との出会いなどを詳しく伝えた。


「ふぅん? 矛盾した生き方だけど、それでも……か。良い人じゃない? 田城ちゃんも目の付け所があるわね?」
「けど、ちょっと心配……です」
「どれに?」
「プレゼント……の方で」
「ああ……全然ダメじゃないけど。本能のまま作ろうとすると危ないわね」


 包丁をほとんど扱えず、チョコを直火で溶かそうとしていたのだから。沓木も、あれを思い出してため息を吐いた。


「それなら〜〜? 案外人間界でばったり再会して〜? お茶とかしてるんじゃないかしらん??」
「そんな……」
「人混みが苦手なのに? けど、まあ。ないとは言い切れないわね?」


 それが現実となれば、うまくいっていれば良いのだけど。でも、美兎は。

 田城が不動を妖と知った時に、どう受け止めるかが一番心配だったのだ。
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