名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~
のっぺらぼう
第1話 恋の予感
ここは、錦町に接する妖との境界。
ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。
たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。
元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵』に辿りつけれるかもしれない。
めでたいことだ。
同期で、実は妖だった。火車の風吹こと不動侑が。
飲み友の湖沼美兎の同期である田城真衣と付き合うことになった。妖と人間とのお付き合い組がまたひとつ増えたのだが、美作辰也は少々物悲しかったのだ。
いい感じに社会に揉まれて、いい感じに経験も積んできた。長年の悩みだった、体の意味不明な切り傷も解決出来て。一端の人間としてはそろそろ誰かとお付き合いもしたいとは思っているのだが。
まったくモテないわけではないのだが、今の会社に入社してからは誰とも付き合っていない。切り傷も無くなったのに、なんとなく軽い気持ちで付き合えないのだ。
本気の本気。まったく異なる種族同士の付き合いを見てきたせいか、どうも今まで通りにはいかないのだ。
「……なあ、不動」
「ん?」
「……妖の可愛い子紹介して」
「ぶ!? お、前!?」
風吹が田城と付き合うことになった翌日。
昼が一緒になったので、その店の個室で辰也はなんとなく風吹に聞いたのだった。
「いやだってさ? 俺の事情も事情だし、いずれは奈雲達のこと話さなきゃなんないだろ? だから、人間よりは妖がいいかなぁと」
「……それもそうだが。お前、妖とその…………性行為したら、自分だって人間じゃなくなるんだぞ?」
「あ、そなの? 人間やめるのはなあ。……田城さんには言ったのか?」
「…………言った。すぐに……出来ないから、残念がられた、けど」
「キスはしたのか?」
「…………」
「あー、はいはい。わかったわかった」
幸せのオーラが出まくり、なのでこれ以上野暮な事は聞かないでおこう。
とりあえず、食べるものも食べたので。会社に戻るか、と店を出てすぐに。
不注意ではあったが、誰かとぶつかってしまった。
「きゃ!?」
「おっと、すみません!」
注意散漫過ぎだと、自分で反省しながらその女性を抱き止めると。
顔を見た途端、辰也は二重の意味で心臓に衝撃を受けたのだった。
「こちらこそ、ありがとうございます」
照れた顔がとても愛らしい女性。
年は美兎と変わらないくらい。
けど、その顔がどういうわけか。辰也にはだぶって見えて、目も鼻も、口もないのっぺらな顔があったのだ。
「? おい、美作? どうし……?」
風吹が声をかけて来ても、辰也は彼女の顔に釘付けだった。
可愛いと、のっぺらな顔が二重に見えるなど普通じゃないと思いながら。どう言葉をかけていいものかと。
「? あ、あの……?」
「! あ、すみません。……立てますか?」
「はい」
立たせると、結構小柄ではあるが。顔以外に気になったのは、男なら見てしまう胸部の部分だった。失礼だが、美兎より立派だった。
「……気をつけて」
「? はい、そちらも」
ああ、行ってしまうと思ったが。ひとつだけ確信があった。
隣に立った風吹に振り返り、思いっきり肩を掴んだ。
「? どうした?」
「今の子! 顔がないようにも見えたんだけど!!」
「! ああ……のっぺらぼうか」
「けど!? 変身? してる顔可愛いんだけど!!」
「お前……惚れたのか?」
「かも?…………ああ、なんで連絡先聞かなかったんだ、俺!!」
一生の不覚、と後悔していたら。風吹に掴んでた手を払われた。
「連絡先をある意味知る方法があるだろう?」
「あ?」
「錦の界隈。楽庵で出会える可能性もある。あの大将は顔が広いからな?」
「あ」
たしかに、それもそうだ。
すぐに、とまではいかないが。今晩行こうと決めたのだった。
ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。
たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。
元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵』に辿りつけれるかもしれない。
めでたいことだ。
同期で、実は妖だった。火車の風吹こと不動侑が。
飲み友の湖沼美兎の同期である田城真衣と付き合うことになった。妖と人間とのお付き合い組がまたひとつ増えたのだが、美作辰也は少々物悲しかったのだ。
いい感じに社会に揉まれて、いい感じに経験も積んできた。長年の悩みだった、体の意味不明な切り傷も解決出来て。一端の人間としてはそろそろ誰かとお付き合いもしたいとは思っているのだが。
まったくモテないわけではないのだが、今の会社に入社してからは誰とも付き合っていない。切り傷も無くなったのに、なんとなく軽い気持ちで付き合えないのだ。
本気の本気。まったく異なる種族同士の付き合いを見てきたせいか、どうも今まで通りにはいかないのだ。
「……なあ、不動」
「ん?」
「……妖の可愛い子紹介して」
「ぶ!? お、前!?」
風吹が田城と付き合うことになった翌日。
昼が一緒になったので、その店の個室で辰也はなんとなく風吹に聞いたのだった。
「いやだってさ? 俺の事情も事情だし、いずれは奈雲達のこと話さなきゃなんないだろ? だから、人間よりは妖がいいかなぁと」
「……それもそうだが。お前、妖とその…………性行為したら、自分だって人間じゃなくなるんだぞ?」
「あ、そなの? 人間やめるのはなあ。……田城さんには言ったのか?」
「…………言った。すぐに……出来ないから、残念がられた、けど」
「キスはしたのか?」
「…………」
「あー、はいはい。わかったわかった」
幸せのオーラが出まくり、なのでこれ以上野暮な事は聞かないでおこう。
とりあえず、食べるものも食べたので。会社に戻るか、と店を出てすぐに。
不注意ではあったが、誰かとぶつかってしまった。
「きゃ!?」
「おっと、すみません!」
注意散漫過ぎだと、自分で反省しながらその女性を抱き止めると。
顔を見た途端、辰也は二重の意味で心臓に衝撃を受けたのだった。
「こちらこそ、ありがとうございます」
照れた顔がとても愛らしい女性。
年は美兎と変わらないくらい。
けど、その顔がどういうわけか。辰也にはだぶって見えて、目も鼻も、口もないのっぺらな顔があったのだ。
「? おい、美作? どうし……?」
風吹が声をかけて来ても、辰也は彼女の顔に釘付けだった。
可愛いと、のっぺらな顔が二重に見えるなど普通じゃないと思いながら。どう言葉をかけていいものかと。
「? あ、あの……?」
「! あ、すみません。……立てますか?」
「はい」
立たせると、結構小柄ではあるが。顔以外に気になったのは、男なら見てしまう胸部の部分だった。失礼だが、美兎より立派だった。
「……気をつけて」
「? はい、そちらも」
ああ、行ってしまうと思ったが。ひとつだけ確信があった。
隣に立った風吹に振り返り、思いっきり肩を掴んだ。
「? どうした?」
「今の子! 顔がないようにも見えたんだけど!!」
「! ああ……のっぺらぼうか」
「けど!? 変身? してる顔可愛いんだけど!!」
「お前……惚れたのか?」
「かも?…………ああ、なんで連絡先聞かなかったんだ、俺!!」
一生の不覚、と後悔していたら。風吹に掴んでた手を払われた。
「連絡先をある意味知る方法があるだろう?」
「あ?」
「錦の界隈。楽庵で出会える可能性もある。あの大将は顔が広いからな?」
「あ」
たしかに、それもそうだ。
すぐに、とまではいかないが。今晩行こうと決めたのだった。