名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

第3話『ホットチョコ』

 美作(みまさか)と、芙美(ふみ)と言うのっぺらぼう。

 いったいどう言う関係なのかはこれから教えてくれるそうだが。火坑(かきょう)は何故か、厨房で甘い匂いのする何かを調理していた。


「火坑さん、それは?」
「ホットチョコですよ? 芙美さんは界隈で有名なくらいに、無類のチョコ好きなんです。僕のような店にも来ていただけるので、この時期にはストックしているんですよ」
「いつもありがとうございます〜」
「いえいえ」


 そして、出来上がったホットチョコは。コーヒーチェーン店に負けないくらい美味しそうな出来上がりだった。なんと、美兎(みう)の分まで作ってくれたので、ありがたく飲ませていただくことに。


「はぁ〜……」
「甘〜い。大将さんは本職じゃないですのに、いつも美味しいですぅ」
「お粗末様です。それで、お話と言うのは? 常連さんには、たしかにかまいたちを守護に持つ方はいらっしゃいますが」
「え〜〜っと、実はですねー?」


 ホットチョコのマグカップをカウンターに置いてから、芙美はモジモジし出した。


「?」
「実は……昼間に人間界に行って。通りでちょっとぶつかったんです。もちろん人化してたので、正体はバレてないと思ってたんですが。あの人……の顔が。私を見て、驚いていたんです。きっと、見鬼(けんき)の持ち主で気づかれたんだと思うんですが」
「だけど?」


 美兎が催促すると、芙美は自分の真っ赤になっていく頬を両手で挟んだ。


「か、かっこよかったんです〜! しかも、あんなにも紳士に対応してくださるだなんて〜! 私、初めてだったんで〜〜!」


 どうやら、一目惚れしたらしい。

 照れてふにゃんとなる顔は妖でも人間でも変わりないのだ。しかし、芙美はそうでも美作本人がどう思っているのか。

 LIMEで呼んで、ここに連れてくることは出来るだろうが、それが正解とも言えない。美兎はまだ温かいホットチョコで、指先がじんじんと温まりながらも考えるのだった。


「ふむ。かまいたちの気配と情報屋としてのスキルを使われて、ここにいらっしゃったんですね?」
「ご名答です〜」
「情報屋……さん?」
「界隈での私の仕事なんです〜。この顔以外にも色々なれるんですよ〜?」


 と言って、芙美はぱっぱっと、手を振っただけで色々な顔になったのだった。のっぺらぼうの特技なら、純粋に凄いと思えた。


「今日人間界に行かれたのはバレンタインフェアだからですか?」
「そうなんです〜。限定チョコを買いに行ってる途中に。あ、今は家に置いてきました」
「なるほど。……しかし、彼が今日ここにいらっしゃるかわかりませんね? 皆さんご自分のお仕事をお持ちですから、来られる日もバラバラですし」
「あ、いえ。ここの常連さんだって、わかって良かったです! 久しぶりにここのお料理も食べたかったですし!」
「ふふ、光栄です」


 なんとかしてあげたいが、美兎が勝手に動くわけにもいかない。火坑も同じ気持ちだろう。

 すると、後ろの引き戸が開く音が聞こえてきた。


「こんばんはー。火坑さん、ちょっと聞きたいことが」


 まさか、その本人が来ると思うだろうか。


「え!?」
「おや?」
「ん?……え、あ!? 昼間の!!?」


 飛んで火に入る夏の虫、とは言わないだろうが。

 もしくは、灯台下暗しと言うことわざがしっくり来るかもしれない。

 とにかく、美作と芙美の再会となったので。二人は座敷に座ることになった。
< 158 / 226 >

この作品をシェア

pagetop