名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~
ダイダラボッチ
第1話 お返しの意味
ここは、錦町に接する妖との境界。
ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。
たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。
元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵』に辿りつけれるかもしれない。
桃の節句も過ぎ。
あと少しで、人間達で言う『ホワイトデー』と言うイベントがある。
バレンタインが妖の文化にも浸透してきた昨今。そのお返しに値する日も浸透していて当然。
だから、各地の界隈などにある妖のデパートでも装いが変わっているのだ。
だが、ろくろ首の盧翔は悩みに悩んでいたのだ。
去年の暮れ近くに、恋人になった雪女の花菜にバレンタインのお返しをするために。
店を休業させて、今日もプレゼントを探しにきているのだが、ちっとも見つからないのだ。
「おや、盧翔さん?」
「ん? あ、大将」
顔は猫、手足は人間。
だけど、毛並みは猫。
化け猫は化け猫ではあるが、猫の霊でもないし。盧翔のようにほぼほぼ人間のような出立ちでもない。
だが、この猫人は、昔。いや、輪廻転生する以前は幽世で地獄の官吏をしていたそうだ。だが、その前世の位をひけらかすこともなく、今では一料理人として接してくれているのだ。
「……随分と難しい顔をされていましたが」
「あー、うん。まあね?」
これ、と指を向ければ。火坑もなるほど、と頷いてくれた。
「お返しですか?」
「花菜がさ? すっげークッキー作ってくれたんだよ。味も美味くて……んで、俺作ろうにもデザートでパンナコッタ作るくらいだから、菓子はあんまり挑戦してなくてさ?」
料理人として情けないわけではない。
どうしても一人でほとんど経営していると、時間が限られてしまい、あまり作る時間がないからだ。
少し肩を落とすと、火坑が何故かぽんと手を叩いたのだ。
「でしたら、盧翔さん。僕と一緒に作りませんか?」
「? 大将と?」
「美兎さんも、花菜ちゃん達と作られたそうですよ? それともう一つ。お菓子作りにでしたら。隆輝さんにご指導いただくのもありではと」
「おー……忘れてた」
知り合いにパティシエがいるのに、すっかりと忘れていた。
今日は休日だが、隆輝は人間界側の店に勤めているので忙しいかと思いきや。
午後から休みをもらえるシフトだったらしく、一旦盧翔の店に集まることになった。
「ホワイトデーのお菓子とかね? 今の人間界でのお菓子には色々意味があるらしいよ?」
盧翔が淹れたインスタントコーヒーを飲みながら、隆輝は語ってくれた。
「定番だけど、マシュマロは『あなたが嫌い』。クッキーは『友達』とかさ?」
「え、マジで?」
「隆輝さんにお聞きして正解でしたね? 僕達だけでは、間違った意味で購入していたかもしれません」
マシュマロは白とピンクなど、色があって可愛いと思っていたから。本当に選ばないで正解だったと安堵のため息を吐いたものだ。
「ま、あくまで人間が考えた意味だしね? でも、広告関係だからケイちゃん達は、多分知っているかもね?」
「花菜も知ってそう……」
「どうしましょうか?」
「ん〜……あ、フロランタンとかどうかな?」
「ふろら?」
「フロランタン。クッキーみたいな見た目だけど、手間がかかって美味しい焼き菓子なんだ」
とりとめて意味がないから、と隆輝は言ったので。三人で今度は材料を買いに行くのに界隈に出たのだった。
ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。
たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。
元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵』に辿りつけれるかもしれない。
桃の節句も過ぎ。
あと少しで、人間達で言う『ホワイトデー』と言うイベントがある。
バレンタインが妖の文化にも浸透してきた昨今。そのお返しに値する日も浸透していて当然。
だから、各地の界隈などにある妖のデパートでも装いが変わっているのだ。
だが、ろくろ首の盧翔は悩みに悩んでいたのだ。
去年の暮れ近くに、恋人になった雪女の花菜にバレンタインのお返しをするために。
店を休業させて、今日もプレゼントを探しにきているのだが、ちっとも見つからないのだ。
「おや、盧翔さん?」
「ん? あ、大将」
顔は猫、手足は人間。
だけど、毛並みは猫。
化け猫は化け猫ではあるが、猫の霊でもないし。盧翔のようにほぼほぼ人間のような出立ちでもない。
だが、この猫人は、昔。いや、輪廻転生する以前は幽世で地獄の官吏をしていたそうだ。だが、その前世の位をひけらかすこともなく、今では一料理人として接してくれているのだ。
「……随分と難しい顔をされていましたが」
「あー、うん。まあね?」
これ、と指を向ければ。火坑もなるほど、と頷いてくれた。
「お返しですか?」
「花菜がさ? すっげークッキー作ってくれたんだよ。味も美味くて……んで、俺作ろうにもデザートでパンナコッタ作るくらいだから、菓子はあんまり挑戦してなくてさ?」
料理人として情けないわけではない。
どうしても一人でほとんど経営していると、時間が限られてしまい、あまり作る時間がないからだ。
少し肩を落とすと、火坑が何故かぽんと手を叩いたのだ。
「でしたら、盧翔さん。僕と一緒に作りませんか?」
「? 大将と?」
「美兎さんも、花菜ちゃん達と作られたそうですよ? それともう一つ。お菓子作りにでしたら。隆輝さんにご指導いただくのもありではと」
「おー……忘れてた」
知り合いにパティシエがいるのに、すっかりと忘れていた。
今日は休日だが、隆輝は人間界側の店に勤めているので忙しいかと思いきや。
午後から休みをもらえるシフトだったらしく、一旦盧翔の店に集まることになった。
「ホワイトデーのお菓子とかね? 今の人間界でのお菓子には色々意味があるらしいよ?」
盧翔が淹れたインスタントコーヒーを飲みながら、隆輝は語ってくれた。
「定番だけど、マシュマロは『あなたが嫌い』。クッキーは『友達』とかさ?」
「え、マジで?」
「隆輝さんにお聞きして正解でしたね? 僕達だけでは、間違った意味で購入していたかもしれません」
マシュマロは白とピンクなど、色があって可愛いと思っていたから。本当に選ばないで正解だったと安堵のため息を吐いたものだ。
「ま、あくまで人間が考えた意味だしね? でも、広告関係だからケイちゃん達は、多分知っているかもね?」
「花菜も知ってそう……」
「どうしましょうか?」
「ん〜……あ、フロランタンとかどうかな?」
「ふろら?」
「フロランタン。クッキーみたいな見た目だけど、手間がかかって美味しい焼き菓子なんだ」
とりとめて意味がないから、と隆輝は言ったので。三人で今度は材料を買いに行くのに界隈に出たのだった。