名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~
第2話 ダイダラボッチ・更紗
ぬらり、ぬらり。
諏訪の森から、久しく尾張に向かっていた。
それはヒトの目に写る程、巨大ではあるのにあまりヒトの目には写らない。
ヒトではないからだ。
そして、普通の妖とも違う。
ヒトの言葉で言うのなら、精霊に近いかもしれない。
少し透明ではあるが、木々や建物にぶつかることはないのだ。考えたことはないが、精霊だからかもしれない。
ひと月ぶりに訪れる尾張は、白や青などの装飾であふれかえっていた。なんだったかな、と思いながら。巨体を界隈におろしてどんどんと小さくさせる。
しまいには、普通の人間くらいの大きさになり。格好もきちんと季節に沿った物を着込んでいた。
そして、界隈にあるデパートの装いを見ると。英語で『ホワイトデー』と書いてあった。なんだったかな、と記憶を頼りにしていると。
先月に、恋人である狐狸の宗睦が甘くて美味しい菓子をくれたことを思い出した。
「……ああ。たしか言ってたね〜?」
自分は頻繁には界隈に来れないから、お返しとかは気にしていないからと。忘れかけてはいたが、何もお返しをしないのは憚られる。
せっかく来たのだ。何か見繕って行こう。
そう決めたら、誰かにぶつかってしまった。
「! 申し訳ありません!」
「いや〜? 大丈夫ー」
ぶつかった相手を見ると、自分の正体を知ったのかすぐに深く腰を折ったのだ。
「本当に、申し訳ありませんでした!」
「気にしないで〜? 僕も不注意だったし〜?」
「そ……う、ですか?」
「盧翔さん、どうされました?」
「あれー?」
同伴者がいたようだ。
片方は赤鬼。片方は見覚えのある猫の妖。
猫の方と目が合うと、彼は自分に軽くお辞儀をしてきた。
「これはこれはダイダラボッチの」
「うん。久しぶり〜?」
「お久しぶりですね? ですが、珍しいですね? 界隈にいらっしゃるとは」
「なんとなく〜。僕の連れにお返しでも買おっかなって」
「ホワイトデーのですか?」
「そうそう、それ〜」
ダイダラボッチの更紗。
人化した見た目は、柔和な笑みが似合う男性ではあるが。恋人はあの宗睦。同性のカップルなのである。
「チカにですかー?」
「うん。結構頑張って用意してくれてたみたいだし〜?」
「あれの作り方教えたの。俺の彼女なんですよー」
「そうなんだ〜? お礼言ってくれる?」
「はい」
三人もかと聞けば、まだビクビクしている盧翔の持つ袋を猫の方が指を向けた。
「我々は、お返しを手作りしようかと。隆輝さんはお菓子作りがお仕事なので。僕らよりは断然詳しいんです」
「手作り〜?」
「はい。今のホワイトデーには、お菓子にも色々な意味があって。あまりいい意味でないのが大半だそうです」
「……僕もいーい?」
『え?』
「僕もチカに作りたい〜」
材料費はもつからと言うと、さらに声を上げさせてしまい。
場所は、隆輝の自宅となって、全員で大量のフロランタンの材料の入った袋を持つことになった。
「……更紗様に荷物持ち」
「いいんだよ、盧翔〜? 僕のわがままだし〜?」
「そうかもですけど!」
「まあまあ。いいじゃない? 更紗様は料理経験とかはどんな感じですか?」
「料理〜? お米は炊けるけど、作るのは卵かけご飯くらいだよー?」
「……わかりました。菓子作りは初心者ですね?」
「うん。ご指導お願い〜」
出来ないことをそのままにするよりも。
出来るようにするのが、大変だけど楽しいと思っている。あのチカに、それを教わったからだが。
隆輝の家に着いて、ひとまずお茶でひと息ついてから。
お菓子作りのスタートとなったわけである。
諏訪の森から、久しく尾張に向かっていた。
それはヒトの目に写る程、巨大ではあるのにあまりヒトの目には写らない。
ヒトではないからだ。
そして、普通の妖とも違う。
ヒトの言葉で言うのなら、精霊に近いかもしれない。
少し透明ではあるが、木々や建物にぶつかることはないのだ。考えたことはないが、精霊だからかもしれない。
ひと月ぶりに訪れる尾張は、白や青などの装飾であふれかえっていた。なんだったかな、と思いながら。巨体を界隈におろしてどんどんと小さくさせる。
しまいには、普通の人間くらいの大きさになり。格好もきちんと季節に沿った物を着込んでいた。
そして、界隈にあるデパートの装いを見ると。英語で『ホワイトデー』と書いてあった。なんだったかな、と記憶を頼りにしていると。
先月に、恋人である狐狸の宗睦が甘くて美味しい菓子をくれたことを思い出した。
「……ああ。たしか言ってたね〜?」
自分は頻繁には界隈に来れないから、お返しとかは気にしていないからと。忘れかけてはいたが、何もお返しをしないのは憚られる。
せっかく来たのだ。何か見繕って行こう。
そう決めたら、誰かにぶつかってしまった。
「! 申し訳ありません!」
「いや〜? 大丈夫ー」
ぶつかった相手を見ると、自分の正体を知ったのかすぐに深く腰を折ったのだ。
「本当に、申し訳ありませんでした!」
「気にしないで〜? 僕も不注意だったし〜?」
「そ……う、ですか?」
「盧翔さん、どうされました?」
「あれー?」
同伴者がいたようだ。
片方は赤鬼。片方は見覚えのある猫の妖。
猫の方と目が合うと、彼は自分に軽くお辞儀をしてきた。
「これはこれはダイダラボッチの」
「うん。久しぶり〜?」
「お久しぶりですね? ですが、珍しいですね? 界隈にいらっしゃるとは」
「なんとなく〜。僕の連れにお返しでも買おっかなって」
「ホワイトデーのですか?」
「そうそう、それ〜」
ダイダラボッチの更紗。
人化した見た目は、柔和な笑みが似合う男性ではあるが。恋人はあの宗睦。同性のカップルなのである。
「チカにですかー?」
「うん。結構頑張って用意してくれてたみたいだし〜?」
「あれの作り方教えたの。俺の彼女なんですよー」
「そうなんだ〜? お礼言ってくれる?」
「はい」
三人もかと聞けば、まだビクビクしている盧翔の持つ袋を猫の方が指を向けた。
「我々は、お返しを手作りしようかと。隆輝さんはお菓子作りがお仕事なので。僕らよりは断然詳しいんです」
「手作り〜?」
「はい。今のホワイトデーには、お菓子にも色々な意味があって。あまりいい意味でないのが大半だそうです」
「……僕もいーい?」
『え?』
「僕もチカに作りたい〜」
材料費はもつからと言うと、さらに声を上げさせてしまい。
場所は、隆輝の自宅となって、全員で大量のフロランタンの材料の入った袋を持つことになった。
「……更紗様に荷物持ち」
「いいんだよ、盧翔〜? 僕のわがままだし〜?」
「そうかもですけど!」
「まあまあ。いいじゃない? 更紗様は料理経験とかはどんな感じですか?」
「料理〜? お米は炊けるけど、作るのは卵かけご飯くらいだよー?」
「……わかりました。菓子作りは初心者ですね?」
「うん。ご指導お願い〜」
出来ないことをそのままにするよりも。
出来るようにするのが、大変だけど楽しいと思っている。あのチカに、それを教わったからだが。
隆輝の家に着いて、ひとまずお茶でひと息ついてから。
お菓子作りのスタートとなったわけである。