名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~
第6話『ホワイトデーのカクテル』
まだまだ夜には早い時間帯。
狐狸の宗睦ことチカは、務めている店『wish』でカクテルの試作と開店までの掃除をしていた。
掃除はもっと下っ端に任せてもいいが、カクテルの試作がある日は大抵請け負っている。ひとりで集中したかったし、急に物音を立てられるとわずかな味のズレが出てしまう。
「う〜〜ん。う〜ん……難しいわねぇ?」
カクテルは、レシピ次第で何百を超えて何千通り以上もあるとされている。
同じレシピでも、わずかな材料の差で微妙に味が変わるように。チカは今、間近に迫った『ホワイトデー』に向けて、店のマスターから課題を言い渡されて試作しているのだ。
無鉄砲者だったチカを拾ってくれた恩人でもある。チカが今の姿になったきっかけでもあるが、恋人はあのダイダラボッチの更紗。
バレンタインには、営業終了してから長野の諏訪に向かって、妖術で飛んで行き。美兎達と作った薔薇のチョコクッキーを受け取ってくれたのだ。
会いたいが、妖とも一線を画している存在とはそうしょっちゅうは会いに行けない。妖でも、下っ端の下っ端でしかない狐のチカとダイダラボッチがと、付き合い始めた当時は色々冷やかし以上のことにもなったが。
更紗本人が激怒して、全国的に天変地異を起こしかけたのだ。あれはもう二度としてはいけない。
だから、今のチカは狐狸でも特別な位置にいるのだ。あんまり、特別扱いされたくないとは思っているが。
「ん〜〜? さっちゃんにも会いたいけどぉ〜〜。会いたくて会いたくて……あらやだ、それじゃあバレンタインじゃなぁい?」
「僕も会いたかった〜〜」
「あたしもよん!…………って!?」
振り返れば、いつカウンターに座っていたのか。会いたくて会いたくて仕方がなかった恋人の姿が。
本性のダイダラボッチとしての巨体ではなく、人間のように縮小して今のチカよりも小柄な成人男性の姿に。
青と金の不思議な色合いの髪は、いつもなら流すだけが今日は後ろで結われていて。
ほにゃほにゃ笑顔のまま、カウンターに腰掛けていたのだった。
「来ちゃった〜?」
「!……んもぅ、もう、もう! 来るなら連絡寄越してよん!! びっくりするじゃなぁい!!」
マドラーなどの道具を少しずらしてから、カウンター越しに抱きつきに行く。
いきなりでも、更紗はびくともせずに受け止めてくれて。チカの頭をよしよしと撫でてくれた。
「あはは〜? 気まぐれでこっちに来ただけだし〜。けど、時間出来たから来たんだー?」
これを渡しに、と。更紗はどこかの菓子屋にでも行って来たのか、可愛らしい紙袋をチカに差し出してきた。
「なぁに〜?」
「今日じゃないけど。ホワイトデーのプレゼント」
「え!? さっちゃん、いいって言ったのに!」
「んふ〜。実は僕の手作り」
「さっちゃんが!?」
米は炊けるが、好物の卵かけご飯以外。自炊することのなかった彼が、手作り。
恐る恐る受け取って中身を見れば、初心者とは思えない出来栄えの。綺麗なアーモンドスライスなどを使った焼き菓子だった。
「実は〜、界隈で猫人の火坑達に会ってね? 彼らに教わったんだ〜」
「きょーちゃん?」
「あと、赤鬼とろくろ首にも」
「なーる?」
盧翔と隆輝にも。全員彼女持ちなので、ホワイトデーのプレゼントを手作りする理由はわかった。で、偶然出会った更紗が混ざっていいか頼んだのだろう。
容易に想像が出来た。
「ね〜。食べて食べて〜? フロランタンだって」
「あ〜? これがフロランタン? 聞いたことはあるけど、初めてね〜?」
じゃあ、とコーヒーでも淹れようかと思ったが。
今このシチュエーションで浮かんだレシピが頭を巡り。
チカは道具を引き戻して、ささっと二人分のカクテルを作ったのだった。
「〜? お酒で食べるの〜?」
「今思いついたのん。飲んでみて? テーマはもち、ホワイトデーよん?」
白と赤のグラデーションが美しいカクテル。
更紗はすぐに口に入れてくれて、ぱあッと顔が輝いた。
「甘いけど〜。ちょっとさっぱり? 飲みやすい〜」
「ココナッツミルク入れてみたのん。けど、度数強いからさっちゃん向きねん?」
チカもひと口飲めば、予想通りの味になっていた。メインのココナッツミルクが主張してくるが、グレナデンシロップのお陰か少し甘い。
ベースはスピリッツで度数が高いから、マスターには味見してもらってから商品化するか決めよう。
そして、更紗手作りのフロランタン。
クッキー生地のような部分はサクサク、上のアーモンドスライスと飴の部分はパリパリで甘いが少し香ばしく。
コーヒーや紅茶でもいいが。今のカクテルにも合う。
我ながら、いい仕事をしたと実感出来た。
「ど〜う?」
更紗の方がはるか年上なのに、子供のような仕草をするのはずるいと思う。
「とっても美味しいわ〜! あたしのためにありがと〜〜!!」
「ふふ。いつも寂しい思いさせてごめんね〜?」
「今日来てくれたからいいわよん!」
それからは、店が開店する間近までイチャイチャしてしまい。
マスターに雷を落とされる時も、更紗まで一緒に叱られてしまったのだ。
狐狸の宗睦ことチカは、務めている店『wish』でカクテルの試作と開店までの掃除をしていた。
掃除はもっと下っ端に任せてもいいが、カクテルの試作がある日は大抵請け負っている。ひとりで集中したかったし、急に物音を立てられるとわずかな味のズレが出てしまう。
「う〜〜ん。う〜ん……難しいわねぇ?」
カクテルは、レシピ次第で何百を超えて何千通り以上もあるとされている。
同じレシピでも、わずかな材料の差で微妙に味が変わるように。チカは今、間近に迫った『ホワイトデー』に向けて、店のマスターから課題を言い渡されて試作しているのだ。
無鉄砲者だったチカを拾ってくれた恩人でもある。チカが今の姿になったきっかけでもあるが、恋人はあのダイダラボッチの更紗。
バレンタインには、営業終了してから長野の諏訪に向かって、妖術で飛んで行き。美兎達と作った薔薇のチョコクッキーを受け取ってくれたのだ。
会いたいが、妖とも一線を画している存在とはそうしょっちゅうは会いに行けない。妖でも、下っ端の下っ端でしかない狐のチカとダイダラボッチがと、付き合い始めた当時は色々冷やかし以上のことにもなったが。
更紗本人が激怒して、全国的に天変地異を起こしかけたのだ。あれはもう二度としてはいけない。
だから、今のチカは狐狸でも特別な位置にいるのだ。あんまり、特別扱いされたくないとは思っているが。
「ん〜〜? さっちゃんにも会いたいけどぉ〜〜。会いたくて会いたくて……あらやだ、それじゃあバレンタインじゃなぁい?」
「僕も会いたかった〜〜」
「あたしもよん!…………って!?」
振り返れば、いつカウンターに座っていたのか。会いたくて会いたくて仕方がなかった恋人の姿が。
本性のダイダラボッチとしての巨体ではなく、人間のように縮小して今のチカよりも小柄な成人男性の姿に。
青と金の不思議な色合いの髪は、いつもなら流すだけが今日は後ろで結われていて。
ほにゃほにゃ笑顔のまま、カウンターに腰掛けていたのだった。
「来ちゃった〜?」
「!……んもぅ、もう、もう! 来るなら連絡寄越してよん!! びっくりするじゃなぁい!!」
マドラーなどの道具を少しずらしてから、カウンター越しに抱きつきに行く。
いきなりでも、更紗はびくともせずに受け止めてくれて。チカの頭をよしよしと撫でてくれた。
「あはは〜? 気まぐれでこっちに来ただけだし〜。けど、時間出来たから来たんだー?」
これを渡しに、と。更紗はどこかの菓子屋にでも行って来たのか、可愛らしい紙袋をチカに差し出してきた。
「なぁに〜?」
「今日じゃないけど。ホワイトデーのプレゼント」
「え!? さっちゃん、いいって言ったのに!」
「んふ〜。実は僕の手作り」
「さっちゃんが!?」
米は炊けるが、好物の卵かけご飯以外。自炊することのなかった彼が、手作り。
恐る恐る受け取って中身を見れば、初心者とは思えない出来栄えの。綺麗なアーモンドスライスなどを使った焼き菓子だった。
「実は〜、界隈で猫人の火坑達に会ってね? 彼らに教わったんだ〜」
「きょーちゃん?」
「あと、赤鬼とろくろ首にも」
「なーる?」
盧翔と隆輝にも。全員彼女持ちなので、ホワイトデーのプレゼントを手作りする理由はわかった。で、偶然出会った更紗が混ざっていいか頼んだのだろう。
容易に想像が出来た。
「ね〜。食べて食べて〜? フロランタンだって」
「あ〜? これがフロランタン? 聞いたことはあるけど、初めてね〜?」
じゃあ、とコーヒーでも淹れようかと思ったが。
今このシチュエーションで浮かんだレシピが頭を巡り。
チカは道具を引き戻して、ささっと二人分のカクテルを作ったのだった。
「〜? お酒で食べるの〜?」
「今思いついたのん。飲んでみて? テーマはもち、ホワイトデーよん?」
白と赤のグラデーションが美しいカクテル。
更紗はすぐに口に入れてくれて、ぱあッと顔が輝いた。
「甘いけど〜。ちょっとさっぱり? 飲みやすい〜」
「ココナッツミルク入れてみたのん。けど、度数強いからさっちゃん向きねん?」
チカもひと口飲めば、予想通りの味になっていた。メインのココナッツミルクが主張してくるが、グレナデンシロップのお陰か少し甘い。
ベースはスピリッツで度数が高いから、マスターには味見してもらってから商品化するか決めよう。
そして、更紗手作りのフロランタン。
クッキー生地のような部分はサクサク、上のアーモンドスライスと飴の部分はパリパリで甘いが少し香ばしく。
コーヒーや紅茶でもいいが。今のカクテルにも合う。
我ながら、いい仕事をしたと実感出来た。
「ど〜う?」
更紗の方がはるか年上なのに、子供のような仕草をするのはずるいと思う。
「とっても美味しいわ〜! あたしのためにありがと〜〜!!」
「ふふ。いつも寂しい思いさせてごめんね〜?」
「今日来てくれたからいいわよん!」
それからは、店が開店する間近までイチャイチャしてしまい。
マスターに雷を落とされる時も、更紗まで一緒に叱られてしまったのだ。