名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

第7話 京都の着物で


 ソフトクリーム屋を後にしてから、ゆっくりゆっくりと祇園(ぎおん)の方へと向かう途中。

 八坂(やさか)神社を通りながら、咲き誇る八重桜も堪能して。側にある、予約していた呉服屋さんの暖簾をくぐった。


「すみません、予約していた香取(かとり)ですが」
「はい、いらっしゃいませ」


 表の看板にも、レンタル着物やってます、とあったのだが。着物の姿はほとんどない。きちんと仕舞っているのだろうかと、美兎(みう)は少し気になった。


「僕はあとでいいので、先に彼女の着付けをお願いしていいですか?」
「はい、かしこまりました」
「お、お願いします!」


 レンタル着物の種類は、事前に火坑(かきょう)つてに連絡はしてある。

 四月らしいもの、桜柄で可愛らしいものを。

 美兎が子供だからじゃないが、美兎に似合う可愛いらしいものを着れる期間は二十代でもそう長くはない。ので、今のうちに着れるものを着て欲しいと、火坑からリクエストがあったのだ。

 奥の着付け用の部屋へと案内されて、着ていた服を預けて肌襦袢に着替える。

 この前の、真穂(まほ)に着付けてもらった時もそうだが、美兎の胸は大きい部類に入るので。くびれた腰回りもだが、胸を多少タオルで潰してから着付けに入る。


「本日のお着物はこちらになります」


 中年くらいの女性店員が、着物を包んでいる紙を取ると。ピンク、赤、白で鮮やかな八重桜柄が主体の、可愛いらしい着物が出てきた。


「わあ! 綺麗で可愛いですね!」
「旦那さんからのご要望に沿って、ご用意させていただきました」
「え、旦那さん?」
「あら、彼氏さんではあるんですよね?」
「そ、そうですけど! まだ結婚してないです!!」
「ふふ、そうですか。大変仲がよろしいので、てっきり」
「うう……」


 たしかに、仲良く手を繋いではいたけれど。初対面の人にもそんな風に見えるのなら、少し、いやだいぶ嬉しい。

 とりあえず、時間が限られているので着付けてもらい、髪も持ってきた美樹(みき)手製のかんざしでまとめてもらった。

 着付け終わってから鏡で見れば、芸妓さんほど綺麗じゃないだろうけれど、可愛く着付けが出来ていた。

 店員と一緒に火坑がいるところに戻れば、火坑は出された茶を飲んでいた。店員が出来上がったことを伝えれば、すぐに振り返ってきて。


「……!」


 似合っている、と視線と表情だけで伝えてくれた。それほど、輝いた表情でいたから。

 少し照れ臭くなってモジモジしていると、火坑はにっこりとさらに微笑んだ。


「とてもよくお似合いですよ?」
「あ、ありがとうございます……!」
「さ、次は彼氏さんの方ですね? 彼女さん、お茶をお持ちしますのでゆっくりとあちらの席でお待ちください」
「あ、はい」


 すぐやってきた男性の店員に連れて行かれた火坑を待つこと十数分。

 温かいお茶を堪能していたら、あっという間に終わったようで。

 名古屋での着物デートの時以上に、渋めの緑を主体にした羽織姿が出来上がったのだった。


「お待たせ致しました」
「素敵です、響也(きょうや)さん!」
「!……ありがとうございます」


 では、京都の祇園を中心に散策しながらデートをしようということではあるが。

 まずは、道真(みちざね)を待たせているので北野天満宮に向かうことにした。
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