名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~
第6話 心の欠片『アボカド創作料理』①
店に入った瞬間。
ほんの少しだけ、火坑の楽庵に似ていると思った。
カウンター以外にも、テーブル席があるし。もう少し広い空間なのに。
何故か、似ていると思った。
「いらっしゃい!」
声を掛けてくれたのは、もうひとりの男性よりは小柄で背が低め。けれど、美兎よりは少し高かった。
火坑から一つ目小僧とは聞いたが、人間に化けているのでごく普通の男性にしか見えない。奥にいる背の高い方が渋めで、こっちに来た男性は眼鏡で口元に髭有り。
妖の人化は美形が多いはずなのに、火坑に似て随分と普通の男性だった。
「こ、こんにちは。初めまして」
「ども。こんちは。火坑はんの奥さんやんなあ?」
「お、おく!?」
「朔斗さん、まだです」
「なーんや。こっちにまで噂流れてきたんに。色々尾びれ背びれついたんか?」
とりあえず、カウンターに案内されると。すぐに、温かい蕎麦茶が出てきた。
京都は春でも、少し肌寒かったので有り難く感じた。
「……いきなり、兄が驚かせて……すみません」
奥に居たのは弟さんだったようで、見た目を裏切らずに声まで渋めだった。軽く会釈してから、先付けのようなものを持ってきてくれた。
「ぶり大根作った時の煮汁で作った、煮凝りや。他の料理はメニュー見て決めてください」
朔斗がメニューの冊子を持ってくると、火坑が言ってた創作料理がずらりと並んでいた。
どれも美味しそうで、あれこれ頼みたくなるくらい。だが、まだ着物なのであんまり食べ過ぎるとお腹がぽっこりしてしまう。
宿は同室で、そう言うことがないとわかっていても、火坑に見苦しい体型を見せたくはない。
とりあえず、先付けで出た煮凝りは想像以上に美味しかった。
「この煮凝り美味しいです!」
「おおきに。弥勒が丹精込めて作ったぶり大根から、こしらえたもんでなあ?」
「……兄さん、恥ずかしい……」
「ええやん。ほんまのことやし」
「せっかくですので、美兎さんの心の欠片をお渡ししませんか?」
「! ええのん!?」
「あ、そうですね!」
火坑の知人で、まだ煮凝りしか食べていないが。美兎も欠片を渡すのは賛成だった。少しでも、火坑の支払い負担が楽になるのならと。
火坑の前に両手を差し出すと、ぽんぽんと彼が手を軽く叩いて。
一瞬光ったと思ったら、出てきたのは大振りのアボカドだった。
「おお! 立派なアボカドやねえ?」
朔斗に渡せば、感心したように眺め出した。
「……サラダ、ピザ、グラタン。……色々出来ますが」
弥勒がぽつりとつぶやくと、美兎はさらに悩んでしまう。
「では、半分はグラタン。もう半分はピザでお願い出来ますか?」
「へい」
「火坑さん?」
「サラダもいいですが、美兎さんはその二つで悩んでいたのではと」
「……はい」
本当に、気遣いの出来る彼氏である。
ほんの少しだけ、火坑の楽庵に似ていると思った。
カウンター以外にも、テーブル席があるし。もう少し広い空間なのに。
何故か、似ていると思った。
「いらっしゃい!」
声を掛けてくれたのは、もうひとりの男性よりは小柄で背が低め。けれど、美兎よりは少し高かった。
火坑から一つ目小僧とは聞いたが、人間に化けているのでごく普通の男性にしか見えない。奥にいる背の高い方が渋めで、こっちに来た男性は眼鏡で口元に髭有り。
妖の人化は美形が多いはずなのに、火坑に似て随分と普通の男性だった。
「こ、こんにちは。初めまして」
「ども。こんちは。火坑はんの奥さんやんなあ?」
「お、おく!?」
「朔斗さん、まだです」
「なーんや。こっちにまで噂流れてきたんに。色々尾びれ背びれついたんか?」
とりあえず、カウンターに案内されると。すぐに、温かい蕎麦茶が出てきた。
京都は春でも、少し肌寒かったので有り難く感じた。
「……いきなり、兄が驚かせて……すみません」
奥に居たのは弟さんだったようで、見た目を裏切らずに声まで渋めだった。軽く会釈してから、先付けのようなものを持ってきてくれた。
「ぶり大根作った時の煮汁で作った、煮凝りや。他の料理はメニュー見て決めてください」
朔斗がメニューの冊子を持ってくると、火坑が言ってた創作料理がずらりと並んでいた。
どれも美味しそうで、あれこれ頼みたくなるくらい。だが、まだ着物なのであんまり食べ過ぎるとお腹がぽっこりしてしまう。
宿は同室で、そう言うことがないとわかっていても、火坑に見苦しい体型を見せたくはない。
とりあえず、先付けで出た煮凝りは想像以上に美味しかった。
「この煮凝り美味しいです!」
「おおきに。弥勒が丹精込めて作ったぶり大根から、こしらえたもんでなあ?」
「……兄さん、恥ずかしい……」
「ええやん。ほんまのことやし」
「せっかくですので、美兎さんの心の欠片をお渡ししませんか?」
「! ええのん!?」
「あ、そうですね!」
火坑の知人で、まだ煮凝りしか食べていないが。美兎も欠片を渡すのは賛成だった。少しでも、火坑の支払い負担が楽になるのならと。
火坑の前に両手を差し出すと、ぽんぽんと彼が手を軽く叩いて。
一瞬光ったと思ったら、出てきたのは大振りのアボカドだった。
「おお! 立派なアボカドやねえ?」
朔斗に渡せば、感心したように眺め出した。
「……サラダ、ピザ、グラタン。……色々出来ますが」
弥勒がぽつりとつぶやくと、美兎はさらに悩んでしまう。
「では、半分はグラタン。もう半分はピザでお願い出来ますか?」
「へい」
「火坑さん?」
「サラダもいいですが、美兎さんはその二つで悩んでいたのではと」
「……はい」
本当に、気遣いの出来る彼氏である。