名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~
雪女弐
第1話『八つ橋アソート』
ここは、錦町に接する妖との境界。
ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。
たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。
元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵』に辿りつけれるかもしれない。
人間のはじめての友達が、『お土産』を買ってきてくれた。
「……八つ橋のアソート?」
「色々迷ったけど、名古屋じゃほとんど八つ橋ないし。色んな味を楽しめるんじゃないかなって」
兄弟子の恋人。湖沼美兎が、兄弟子の火坑と京都に小旅行へ行ってきたそうだ。
LIMEでその話題はあったが、具体的な話は聞いてはいなかった。もともと積極的に話すタイプではない、雪女の花菜は交友関係も恋愛関係も臆病だったから。
今は、違うが。
「俺にもいいのー?」
ろくろ首の盧翔。
今花菜達がいるイタリアンレストランのオーナーシェフであり、花菜の恋人だ。
彼は、花菜達に手製のカプチーノを淹れてくれたのだった。
「はい。皆さんに買ってきたんで」
「皆って……俺達以外にも、霊夢の大将とか色々あっただろ? 気ぃ遣わなくてもいいのに」
「いえ。皆さんにはお世話になっていますから」
専用の手袋で、カップを凍らせないように気をつけて。熱く甘い液体をちびちびと口に入れる。口の部分は他の妖と同じなので、物語であるように雪の息吹を吐く以外は人間とも変わりない。
花菜好みの甘いコーヒーの味に、ちらっと盧翔を見れば彼はにっと口端を上げたのだった。
「んじゃ、ありがと。花菜と一緒に食うよ」
「はい。色んな味があるので楽しめると思います」
そして、美兎が楽養に行ってから。花菜と盧翔は美兎が持ってきてくれた八つ橋を食べることにした。
個包装されている、一種類一種類は小さいが二人で食べ比べするにはちょうどいい。
花菜はチョコが気になったが。
まずは定番の餡子から食べ始めた。
「ん!? 定番!」
「……美味しいですね?」
ういろうとは違うモチモチの生地に、程よく粒感が残った餡子。
ひと口で食べるにはちょうどよくて、どんどんと口に入れてしまう。
これには茶だな、と盧翔が新しく茶を淹れに行ってしまったが。少しして戻ってきた時に持ってきたのは緑茶だった。
「ほい」
「ありがとうございます」
美兎達より少し後に付き合い出したばかりの二人だが。
盧翔はともかく、花菜はまだ敬語が取れないでいた。ジャンルは違うが、料理人としては先輩だったのと花菜もなかなか敬語が外せれない性格なのだ。美兎だけが、今のところ友人として特別だから。
「そういやさ、花菜?」
「? はい?」
盧翔はひょいぱくと八つ橋を食べながら、花菜に問いかけてきた。
「あんま聞いてなかったけど。花菜が霊夢の大将んとこで修行してるきっかけとかってなんなんだ?」
「! 聞きたい……ですか?」
「ちょっとなあ? 種族はあれだけど、あそこいい男揃いじゃん?」
「そ、そう言う理由じゃ!」
「わかってるって。お前は俺一筋だろ?」
と言いながら、すぐ隣に居たので軽くキスされてしまった。
嫌ではないのだが、不意打ちは心臓に悪い。とてもドキドキしてしまうから。
唇の柔らかさの余韻に浸りながら、花菜は数十年前のことを振り返ることにした。
ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。
たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。
元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵』に辿りつけれるかもしれない。
人間のはじめての友達が、『お土産』を買ってきてくれた。
「……八つ橋のアソート?」
「色々迷ったけど、名古屋じゃほとんど八つ橋ないし。色んな味を楽しめるんじゃないかなって」
兄弟子の恋人。湖沼美兎が、兄弟子の火坑と京都に小旅行へ行ってきたそうだ。
LIMEでその話題はあったが、具体的な話は聞いてはいなかった。もともと積極的に話すタイプではない、雪女の花菜は交友関係も恋愛関係も臆病だったから。
今は、違うが。
「俺にもいいのー?」
ろくろ首の盧翔。
今花菜達がいるイタリアンレストランのオーナーシェフであり、花菜の恋人だ。
彼は、花菜達に手製のカプチーノを淹れてくれたのだった。
「はい。皆さんに買ってきたんで」
「皆って……俺達以外にも、霊夢の大将とか色々あっただろ? 気ぃ遣わなくてもいいのに」
「いえ。皆さんにはお世話になっていますから」
専用の手袋で、カップを凍らせないように気をつけて。熱く甘い液体をちびちびと口に入れる。口の部分は他の妖と同じなので、物語であるように雪の息吹を吐く以外は人間とも変わりない。
花菜好みの甘いコーヒーの味に、ちらっと盧翔を見れば彼はにっと口端を上げたのだった。
「んじゃ、ありがと。花菜と一緒に食うよ」
「はい。色んな味があるので楽しめると思います」
そして、美兎が楽養に行ってから。花菜と盧翔は美兎が持ってきてくれた八つ橋を食べることにした。
個包装されている、一種類一種類は小さいが二人で食べ比べするにはちょうどいい。
花菜はチョコが気になったが。
まずは定番の餡子から食べ始めた。
「ん!? 定番!」
「……美味しいですね?」
ういろうとは違うモチモチの生地に、程よく粒感が残った餡子。
ひと口で食べるにはちょうどよくて、どんどんと口に入れてしまう。
これには茶だな、と盧翔が新しく茶を淹れに行ってしまったが。少しして戻ってきた時に持ってきたのは緑茶だった。
「ほい」
「ありがとうございます」
美兎達より少し後に付き合い出したばかりの二人だが。
盧翔はともかく、花菜はまだ敬語が取れないでいた。ジャンルは違うが、料理人としては先輩だったのと花菜もなかなか敬語が外せれない性格なのだ。美兎だけが、今のところ友人として特別だから。
「そういやさ、花菜?」
「? はい?」
盧翔はひょいぱくと八つ橋を食べながら、花菜に問いかけてきた。
「あんま聞いてなかったけど。花菜が霊夢の大将んとこで修行してるきっかけとかってなんなんだ?」
「! 聞きたい……ですか?」
「ちょっとなあ? 種族はあれだけど、あそこいい男揃いじゃん?」
「そ、そう言う理由じゃ!」
「わかってるって。お前は俺一筋だろ?」
と言いながら、すぐ隣に居たので軽くキスされてしまった。
嫌ではないのだが、不意打ちは心臓に悪い。とてもドキドキしてしまうから。
唇の柔らかさの余韻に浸りながら、花菜は数十年前のことを振り返ることにした。