名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~
がしゃどくろ弐
第1話 がしゃどくろ①
ここは、錦町に接する妖との境界。
ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。
たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。
元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵』に辿りつけれるかもしれない。
界隈には、人間界と似せている箇所と似せていない箇所がある。
隣接する境目は、似せていて。
住居を除いた別のところは似せていない。つまりは、ほとんど空の空間だ。更地やかつて栄えた地域の成れの果てというのが多い。
がしゃどくろの合歓は、そこのひとつに笹河原秋保を連れて行く。
約束通りに、合歓の本性であるがしゃどくろを見せるためだ。
だが、骨マニアなのに、他は普通の女性らしく怖がる性格である彼女は。
だんだんと不気味な雰囲気が漂う界隈の様子を見て、合歓の上着の裾を控えめにつかんでいる。その様子がいじらしくて、合歓は内心悶々としていた。
まだ出会って一週間程度。
普段はLIMEで何気ない会話をやり取りするくらい。
一目惚れしてから、ほんの少しだ。
彼女からどう思われているかわからないうちに、秋保からのお願いで合歓の本性を見せることになった。だが、普通の妖よりも巨大な存在なので、おいそれと街中で本性を晒せないのだ。
だからこそ、界隈の端程度の更地でしか出来ないわけである。
「……笹河原さん、大丈夫?」
「だ……だいじょぶでふ!」
「……いや、説得力ないんだけど」
街灯も少なくなってきた場所で聞けば、秋保はガタガタのプルプルの状態で返事をしてくれた。
この錦では、人肉を食べるような輩がいないのは知っているが、妖などの妖怪と接するようになったのが最近である秋保には怖くて仕方がないだろう。
合歓自身もその対象になり得るのに。
かと言って、ここから怖がりの人間ひとりで帰らせるわけにもいかない。迷い込んで、食べはしないだろうが霊力に惹かれて手込めにしようとする連中はいないとも限らない。
だから、合歓はまだ本性を見せるのをためらっているのだ。
「だ、だいじょぶです!! ずっと楽しみにしてた、合歓さんの本性が見られるんですもん!! ちょ、ちょっとこの辺の雰囲気が怖いだけなんて!!」
「……じゃあ。この辺ならいいかな」
障害物も少ない、更地が適度に広がっている場所。
秋保が怖がっていても、さっさと見せるなら見せた方がいいだろう。
秋保に少し離れるように言い聞かせてから、合歓は被ってた帽子と上着だけを脱いだ。
それを地面に置いて、右手を顔の前に近づける。
まず、肉がごっそりと無くなる感覚がした。
手足が伸びて、服は消失して骨だけになった身体がぐんぐんと空に向かって伸びて行く。
髪も消え、頭蓋骨が盛り上がる感覚もした。
久しぶりになった、『がしゃどくろ』。
埋葬されなかった、死者の骨や怨霊の塊となった巨大骸骨の妖。
数メートル近くの巨体となる感覚を得たら、下にいるはずの秋保を探す。
絶対怖がっているだろうと思っていたのだが。
合歓の目には、まるでテーマパークのキャラクターを目にしたように。
くりくりの大きな瞳を輝かせ、頬を赤くしていた女性が映っていたのだった。
ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。
たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。
元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵』に辿りつけれるかもしれない。
界隈には、人間界と似せている箇所と似せていない箇所がある。
隣接する境目は、似せていて。
住居を除いた別のところは似せていない。つまりは、ほとんど空の空間だ。更地やかつて栄えた地域の成れの果てというのが多い。
がしゃどくろの合歓は、そこのひとつに笹河原秋保を連れて行く。
約束通りに、合歓の本性であるがしゃどくろを見せるためだ。
だが、骨マニアなのに、他は普通の女性らしく怖がる性格である彼女は。
だんだんと不気味な雰囲気が漂う界隈の様子を見て、合歓の上着の裾を控えめにつかんでいる。その様子がいじらしくて、合歓は内心悶々としていた。
まだ出会って一週間程度。
普段はLIMEで何気ない会話をやり取りするくらい。
一目惚れしてから、ほんの少しだ。
彼女からどう思われているかわからないうちに、秋保からのお願いで合歓の本性を見せることになった。だが、普通の妖よりも巨大な存在なので、おいそれと街中で本性を晒せないのだ。
だからこそ、界隈の端程度の更地でしか出来ないわけである。
「……笹河原さん、大丈夫?」
「だ……だいじょぶでふ!」
「……いや、説得力ないんだけど」
街灯も少なくなってきた場所で聞けば、秋保はガタガタのプルプルの状態で返事をしてくれた。
この錦では、人肉を食べるような輩がいないのは知っているが、妖などの妖怪と接するようになったのが最近である秋保には怖くて仕方がないだろう。
合歓自身もその対象になり得るのに。
かと言って、ここから怖がりの人間ひとりで帰らせるわけにもいかない。迷い込んで、食べはしないだろうが霊力に惹かれて手込めにしようとする連中はいないとも限らない。
だから、合歓はまだ本性を見せるのをためらっているのだ。
「だ、だいじょぶです!! ずっと楽しみにしてた、合歓さんの本性が見られるんですもん!! ちょ、ちょっとこの辺の雰囲気が怖いだけなんて!!」
「……じゃあ。この辺ならいいかな」
障害物も少ない、更地が適度に広がっている場所。
秋保が怖がっていても、さっさと見せるなら見せた方がいいだろう。
秋保に少し離れるように言い聞かせてから、合歓は被ってた帽子と上着だけを脱いだ。
それを地面に置いて、右手を顔の前に近づける。
まず、肉がごっそりと無くなる感覚がした。
手足が伸びて、服は消失して骨だけになった身体がぐんぐんと空に向かって伸びて行く。
髪も消え、頭蓋骨が盛り上がる感覚もした。
久しぶりになった、『がしゃどくろ』。
埋葬されなかった、死者の骨や怨霊の塊となった巨大骸骨の妖。
数メートル近くの巨体となる感覚を得たら、下にいるはずの秋保を探す。
絶対怖がっているだろうと思っていたのだが。
合歓の目には、まるでテーマパークのキャラクターを目にしたように。
くりくりの大きな瞳を輝かせ、頬を赤くしていた女性が映っていたのだった。