名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~
烏天狗弐
第1話 子供と烏天狗
ここは、錦町に接する妖との境界。
ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。
たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。
元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵』に辿りつけれるかもしれない。
烏天狗。
天狗の一種であり。
山伏のような装いをしていて。
背には、濡羽の立派な翼。
彫刻のように、美しい顔が特徴的で。
少しだけ、人間と似ているようでそうでいない妖だが。
まさか、翠雨は人間の女と懇意な関係になるとは思わないでいた。
昔も、今も。
烏天狗の一員として、唯一人の存在でいるものだと思っていたのだから。
紗凪と初めて出会った時は。
彼女が、まだ六つ程の子供だった。
『……けて。たす……けて!!』
翠雨が、久しぶりに尾張に出向いた時に。
やけに、強い霊力を感じたので気になって探していたら。
怨霊の塊である存在が、幼い人間の女に襲いかかろうとしていた。
別に翠雨は正義の味方ではないのだが、反射的に身体が動いて。その怨霊を調伏した。
『……大丈夫でござるか?』
翠雨が天狗の面を外して、膝を付けば。小さい女は目を輝かせていたのだった。
『おにーさん、きれー!』
あれだけ怖い思いをしただろうに、翠雨の顔の美しさに手をパチパチと叩き出した。幼いのに、意外に肝が据わっているのだろうか。
『某のことはいい。……界隈に迷い込むとは。いつから居た?』
『かいわい??』
何も知らずに迷い込んだのだろう。
この年頃は特に迷いやすいと言われているので、仕方がないが安全な出口を出てからも人化して送り届けるか。
しかし、この子供。
幼いながらも、桁違いに霊力が高い。探していた霊力の持ち主を見つけられたが、こんなにも幼いとは予想外だった。
それに加えて、なんと愛らしい。
成長した姿が楽しみに思えるくらい。
そこで、思考が逸れていたと頭を振り、まだ輝かせていた目で翠雨を見ている子供の頭を撫でてやった。
『ここは、お前のような子供が居ていい場所ではござらん。送ろう、立てるか?』
『え……へへへ』
何故か笑い出したが、よく見ると膝を深く擦りむいていた。泣き叫んでいてもいい傷なのに、怨霊に襲えわれかけたのと翠雨の登場で忘れていたのだろう。
翠雨は厨子から傷薬の小箱を取り出して。傷口を水の術で軽く洗ってから塗ってやった。
塗った途端に、傷口がみるみる消えていく。烏天狗の秘薬だから当然だろう。
子供はパチパチとまた手を叩いた。
『痛くはないか?』
『だいじょーぶ! おにーさん、ありがとー!!』
『そうか』
礼を言われるほどではなかったが、何故かむずがゆく感じた。
そうして、人化してから手を繋ぎながら界隈を歩き。子供を人間達のいる狭間まで送ったが。
将来的に、この子供と恋仲になるだなんて、この時の翠雨は思いもしなかった。
ヒトとも接する歓楽街の界隈に、ほんの少し接しているのだが。ヒトから入るには、ある程度の資質を持つ者でしか訪れるのは叶わず。
たとえばそう、妖が好む霊力があるとすれば。
元地獄の補佐官だった猫と人のような姿をしている店主の営む小料理屋、『楽庵』に辿りつけれるかもしれない。
烏天狗。
天狗の一種であり。
山伏のような装いをしていて。
背には、濡羽の立派な翼。
彫刻のように、美しい顔が特徴的で。
少しだけ、人間と似ているようでそうでいない妖だが。
まさか、翠雨は人間の女と懇意な関係になるとは思わないでいた。
昔も、今も。
烏天狗の一員として、唯一人の存在でいるものだと思っていたのだから。
紗凪と初めて出会った時は。
彼女が、まだ六つ程の子供だった。
『……けて。たす……けて!!』
翠雨が、久しぶりに尾張に出向いた時に。
やけに、強い霊力を感じたので気になって探していたら。
怨霊の塊である存在が、幼い人間の女に襲いかかろうとしていた。
別に翠雨は正義の味方ではないのだが、反射的に身体が動いて。その怨霊を調伏した。
『……大丈夫でござるか?』
翠雨が天狗の面を外して、膝を付けば。小さい女は目を輝かせていたのだった。
『おにーさん、きれー!』
あれだけ怖い思いをしただろうに、翠雨の顔の美しさに手をパチパチと叩き出した。幼いのに、意外に肝が据わっているのだろうか。
『某のことはいい。……界隈に迷い込むとは。いつから居た?』
『かいわい??』
何も知らずに迷い込んだのだろう。
この年頃は特に迷いやすいと言われているので、仕方がないが安全な出口を出てからも人化して送り届けるか。
しかし、この子供。
幼いながらも、桁違いに霊力が高い。探していた霊力の持ち主を見つけられたが、こんなにも幼いとは予想外だった。
それに加えて、なんと愛らしい。
成長した姿が楽しみに思えるくらい。
そこで、思考が逸れていたと頭を振り、まだ輝かせていた目で翠雨を見ている子供の頭を撫でてやった。
『ここは、お前のような子供が居ていい場所ではござらん。送ろう、立てるか?』
『え……へへへ』
何故か笑い出したが、よく見ると膝を深く擦りむいていた。泣き叫んでいてもいい傷なのに、怨霊に襲えわれかけたのと翠雨の登場で忘れていたのだろう。
翠雨は厨子から傷薬の小箱を取り出して。傷口を水の術で軽く洗ってから塗ってやった。
塗った途端に、傷口がみるみる消えていく。烏天狗の秘薬だから当然だろう。
子供はパチパチとまた手を叩いた。
『痛くはないか?』
『だいじょーぶ! おにーさん、ありがとー!!』
『そうか』
礼を言われるほどではなかったが、何故かむずがゆく感じた。
そうして、人化してから手を繋ぎながら界隈を歩き。子供を人間達のいる狭間まで送ったが。
将来的に、この子供と恋仲になるだなんて、この時の翠雨は思いもしなかった。