名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

第3話 栗栖紗凪


 いきなりのダブルデートになってしまったが、場所が一緒なのは水族館だけらしいので。そこだけ一緒に回ることになった。

 チケット代は、それぞれの彼氏様が既に購入済みだったから、美兎(みう)紗凪(さな)は名港線に乗り換えてからそれぞれの彼氏様にお礼を言ったのだ。


「さっすが、すーくん!」
「……大したことではござらん」


 すーくん、こと烏天狗の翠雨(すいう)は照れたのか、耳だけ赤くすると言う器用な照れ方をしていた。

 そして、その彼女である紗凪は人前でも平気でハグしに行く大胆さ。美兎がもし真穂(まほ)とかにしろと言われても響也(火坑)に抱きつくなど無理だ。

 告白された時に火坑から抱きつかれはしたが、びっくりし過ぎて思わず気絶したくらいだ。

 ちょっと、ほんの少し、紗凪の大胆さは羨ましく思えたが。


「しかし。驚きましたね? あなたも人間の女性とお付き合いなさっていらっしゃったとは」
「……そっくりそのまま、貴殿に返す」
「ふふ。僕と美兎さんはまだ最近ですよ?」
「……楽庵(らくあん)に行けなかった間、だ」
「いえーい! もうすぐ五ヶ月記念だよ!」
「……はしゃぐな」


 どう言う経緯があったかは聞きたいが、あと少しで水族館の最寄りにある駅に着く。

 話は中断され、電子カードでそれぞれ改札を通って行く。美兎や紗凪はともかく、妖も現代の文化を受け入れているのが未だ不思議に思う。火坑とLIMEでやり取りするようになったのに、今更ではあるが。

 とりあえず、水族館までは少し距離があるのでそれぞれの彼氏と並ぶかと思いきや。

 紗凪はどこが気に入ったのか、美兎の手を取ってまるで子供のようにはしゃぎながら先を歩いた。


「んふふ〜んふふ〜、美兎ちゃんと〜」
「あの……栗栖(くるす)さん?」
「さ〜なっ!」
「えっと……紗凪、ちゃん。年近いって言ってたけど。いくつ?」
「二十三!」
「あ、ほんとに同じだ」


 なら、遠慮なくタメ口でもいいだろう。

 紗凪も、自分の予想が当たったのが嬉しかったのかニコニコしていた。


「ね〜? 私の勘は結構当たるんだー!」
「そ、そうなんだ。あ、あのさ?」
「うん?」
「せっかくのデートなのに、私達も一緒でいいの?」
「もちもち! それに彼氏が妖怪同士の友達とか、初めてだし。嬉しい!」
「そ、そっか」


 出会ってまだ一時間も経っていないのに、もう友達とは。紗凪の行動力は同い年であれど見習いたいくらいだ。


「ねーねー? かきょーさん? って、本性なんなの?」
「えっと……猫の頭の妖さん?」
「え、猫?」
「今は、変身されているから人間だけど。翠雨さんの烏天狗の姿ってどんなの?」
「んふふ〜〜! 超超超かっこいいんだよ!? 髪と同じくらい綺麗な黒い翼とか! 艶々なのに、触るとふわふわしてるんだよね? あ、顔とかはあのままだよ? 天狗でも鼻が長いとかはなくて、時々赤い天狗のお面はかぶっているけど」
「へ〜?」


 顔はそのまま。経緯はまだ聞けてはいないが、実に面食い。

 は、言うと怒られるか盛大に惚気られそうだが、と思っていると。紗凪の方からくいくいと握っている手を引っ張られた。


「かきょーさんは、今の見た目普通の人だね? 妖怪はほとんど美形ばっかりって聞くけど。美兎ちゃんは違うんだ?」


 随分と直球な言葉を投げかけられた。が、嫌ではない。


「……うん。元の姿の優しい笑顔とか。気遣いとか。とにかく、あの人の全部が好き」
「いや〜ん! ラブラブなんだね!! 今美兎ちゃん、いい顔になったよ?」
「そ、そうかな?」
「うん! そっか〜。うん、私もすーくんの全部が大好き! 助けてもらったことの恩返しもあったけど、今は全部好き!」
「助けて……?」
「私ねー? 今は抑え込んではあるけど。かなりの霊力の持ち主らしいんだ〜? それで、ちっちゃな頃から妖怪とか悪霊に狙われまくって。それを助けてくれたのがすーくんなの」


 助けてもらった恩。

 美兎とは違い、紗凪は本当に命を狙われていたのだろう。なのに、なんてことのないように美兎に話してくれるし、終始笑顔。

 きっとそうなれたのは、翠雨のお陰だろう。


「……そうなんだ」
「うん! あ、先にLIME交換しよ? あとでだと私が忘れそうだから!」
「いいよー」


 IDを交換している間に、翠雨達も追いついてきて。紗凪は彼から軽く頭を小突かれてしまったのだった。


「まったく、社会人になったとは言え。湖沼殿のように落ち着きを持て!」
「いった〜い!」
「本気で殴ってなどおらぬ!……すまない、湖沼殿」
「あ、いえ。大丈夫です」
「ふふ。もうお友達になられたのですね?」
「あ、はい」


 とりあえず、今度はカップル同士で目指すことになり。美兎は、さりげなく掴まれた手を握り返したのだった。
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