名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~
第7話 マンボウの料理
マンボウ。
マンボウ。
美兎は彼氏である妖の火坑の口からマンボウが食べられる食材にもなると聞いて、気になってしまった。
一緒に水族館を回っている、本性は烏天狗の翠雨も食べたことがあるらしいし。その彼女である、栗栖紗凪は食べたことがないらしいが。
まだ美兎も食べたことがない、海のパイナップルとも言われている『ホヤ』も珍味だとは聞くが。
今向かっているレストランには、あるのだろうか。
あったら頼んでみようと思い、席に着いてから火坑の渡されたメニューを広げたのだが。
ごく普通のファミリーレストランにあるようなメニューしかなかった。
「美兎さん、どうされましたか?」
火坑が心配そうに声をかけて来てくれたので、美兎は正直に話すことにした。
「……響也さんが言っていた、マンボウがあるかなって思って」
「! ふふ。マンボウは扱いが難しいですからね? 通常の飲食店ではあまり出回っていないんですよ」
「……そうですか」
「じゃあさ? かきょーさんのお店に行けば食べられるの?」
「どうでしょう? 柳橋で卸しているのが有れば、仕入れますが。一度業者さんに聞いてみますね?」
「楽庵でですか!」
「都合がつけば……ですが。仕入れが出来たらご連絡します」
嬉しい。美兎のわがままでしかないのに、わざわざ仕入れてくれるなんて。
どんな料理になるか今から楽しみであるが、とりあえず小腹が空いてきたのでメニューを改めて見た。
「……某、近いうちに紀伊に行く機会があるでござる。ならば、某が持って来ようか?」
「え、すーくん。三重に行くの?」
「少々所用があるだけだが」
「……いいんですか?」
「構わない。が、ひとつ頼みがある」
「なんでしょう?」
マンボウが食べられるかもしれない。
その事実に胸が躍ってきたが、翠雨の言う条件とはなんなのか。美兎も気になったので、じっと待つことにした。
「……マンボウを使ったカレーを所望したい」
「カレー、ですか?」
「あっはは! すーくん、カレー大好きだもん!」
「! なるほど。僕の店ではわざわざ仕込みませんしね?」
「マンボウでカレーって出来るんですが?」
まず、どんな味なのかがわからない者には想像がつかない。つい先程、翠雨の口から鶏肉のような味だと聞かされていても、実際に食べてみないとわからないから。
なので、美兎が質問すると彼は小さく頷いた。
「左様。あちらの地元では店などでよくあったりもするが、海沿いでしか提供はないでござるな? レトルトでも販売はあるが、某は店で食べる方が好きだ。カツカレーは絶品でござるよ!」
「カツ?」
「ステーキ、串焼き。フライに竜田揚げもあります。地元ですと、腸の刺身もあったりするんです」
「竜田揚げ!? 唐揚げの部類も出来るのでござるか?」
「あのー」
話が盛り上がってきたところで、お店のウェイトレスから声をかけられたのだ。
「はい?」
「お話中のところ申し訳ございません。ご注文は大丈夫でしょうか?」
「あ!」
「すみません! すぐに選びます!」
「私、海鮮丼のセットで!」
「そ……俺はカツカレー、大盛りで」
翠雨の貴重な一人称も聞けたが、美兎は和風おろしハンバーグ。火坑は鶏肉のトマト煮を選んだのだった。
「先に頼んでたらよかったよねー?」
「ごめん。……私がマンボウの話題出したから」
「いいっていいって! すーくんの好みがまたひとつ知ることが出来たんだもん! 美兎ちゃんやかきょーさんには感謝だよ!」
「…………その時同行するでござるか?」
「いいの!?」
やったー、と紗凪は翠雨の懐に飛びついて行った。彼女の勢いも凄かったが、慣れている翠雨もしっかり受け止めていたので凄いと思った。
美兎は、まだ火坑に対して気軽に好き好きとアピール出来ない。初心と言う年頃ではないのだが、気軽に触れ合うような大胆さを持ち合わせていないのだ。
だから、ひょっとしたら、その臆病さで過去の彼氏にも二股をかけられたのだろう。
火坑は絶対違うと信じていても、その不安は簡単に拭えなかった。
「お待たせ致しました。お先にカツカレー大盛りと和風おろしハンバーグです」
「……ああ」
「あ、ありがとうございます」
先に美兎と翠雨の注文が届いてきたので、火坑と紗凪には食べなよと言われたから食べることにした。
味はやはり火坑とは比べ物にならないが、ファミレスレベルならまずまずだろう。
だがしかし。
翠雨のカレーに対する情熱が凄いのか、彼は物凄い勢いで食べ進めていた。
「……お待たせ致しました。海鮮丼のセットと鶏肉のトマト煮です」
「はいはーい! 私が海鮮丼」
「ありがとうございます」
紗凪は慣れているのが全く動じていなかった。火坑もそうなのか、いつもどおりでいたし。
美兎も、ちょっとのことで動じないようにしようとは思うが。無理かな、と諦めるのだった。
マンボウ。
美兎は彼氏である妖の火坑の口からマンボウが食べられる食材にもなると聞いて、気になってしまった。
一緒に水族館を回っている、本性は烏天狗の翠雨も食べたことがあるらしいし。その彼女である、栗栖紗凪は食べたことがないらしいが。
まだ美兎も食べたことがない、海のパイナップルとも言われている『ホヤ』も珍味だとは聞くが。
今向かっているレストランには、あるのだろうか。
あったら頼んでみようと思い、席に着いてから火坑の渡されたメニューを広げたのだが。
ごく普通のファミリーレストランにあるようなメニューしかなかった。
「美兎さん、どうされましたか?」
火坑が心配そうに声をかけて来てくれたので、美兎は正直に話すことにした。
「……響也さんが言っていた、マンボウがあるかなって思って」
「! ふふ。マンボウは扱いが難しいですからね? 通常の飲食店ではあまり出回っていないんですよ」
「……そうですか」
「じゃあさ? かきょーさんのお店に行けば食べられるの?」
「どうでしょう? 柳橋で卸しているのが有れば、仕入れますが。一度業者さんに聞いてみますね?」
「楽庵でですか!」
「都合がつけば……ですが。仕入れが出来たらご連絡します」
嬉しい。美兎のわがままでしかないのに、わざわざ仕入れてくれるなんて。
どんな料理になるか今から楽しみであるが、とりあえず小腹が空いてきたのでメニューを改めて見た。
「……某、近いうちに紀伊に行く機会があるでござる。ならば、某が持って来ようか?」
「え、すーくん。三重に行くの?」
「少々所用があるだけだが」
「……いいんですか?」
「構わない。が、ひとつ頼みがある」
「なんでしょう?」
マンボウが食べられるかもしれない。
その事実に胸が躍ってきたが、翠雨の言う条件とはなんなのか。美兎も気になったので、じっと待つことにした。
「……マンボウを使ったカレーを所望したい」
「カレー、ですか?」
「あっはは! すーくん、カレー大好きだもん!」
「! なるほど。僕の店ではわざわざ仕込みませんしね?」
「マンボウでカレーって出来るんですが?」
まず、どんな味なのかがわからない者には想像がつかない。つい先程、翠雨の口から鶏肉のような味だと聞かされていても、実際に食べてみないとわからないから。
なので、美兎が質問すると彼は小さく頷いた。
「左様。あちらの地元では店などでよくあったりもするが、海沿いでしか提供はないでござるな? レトルトでも販売はあるが、某は店で食べる方が好きだ。カツカレーは絶品でござるよ!」
「カツ?」
「ステーキ、串焼き。フライに竜田揚げもあります。地元ですと、腸の刺身もあったりするんです」
「竜田揚げ!? 唐揚げの部類も出来るのでござるか?」
「あのー」
話が盛り上がってきたところで、お店のウェイトレスから声をかけられたのだ。
「はい?」
「お話中のところ申し訳ございません。ご注文は大丈夫でしょうか?」
「あ!」
「すみません! すぐに選びます!」
「私、海鮮丼のセットで!」
「そ……俺はカツカレー、大盛りで」
翠雨の貴重な一人称も聞けたが、美兎は和風おろしハンバーグ。火坑は鶏肉のトマト煮を選んだのだった。
「先に頼んでたらよかったよねー?」
「ごめん。……私がマンボウの話題出したから」
「いいっていいって! すーくんの好みがまたひとつ知ることが出来たんだもん! 美兎ちゃんやかきょーさんには感謝だよ!」
「…………その時同行するでござるか?」
「いいの!?」
やったー、と紗凪は翠雨の懐に飛びついて行った。彼女の勢いも凄かったが、慣れている翠雨もしっかり受け止めていたので凄いと思った。
美兎は、まだ火坑に対して気軽に好き好きとアピール出来ない。初心と言う年頃ではないのだが、気軽に触れ合うような大胆さを持ち合わせていないのだ。
だから、ひょっとしたら、その臆病さで過去の彼氏にも二股をかけられたのだろう。
火坑は絶対違うと信じていても、その不安は簡単に拭えなかった。
「お待たせ致しました。お先にカツカレー大盛りと和風おろしハンバーグです」
「……ああ」
「あ、ありがとうございます」
先に美兎と翠雨の注文が届いてきたので、火坑と紗凪には食べなよと言われたから食べることにした。
味はやはり火坑とは比べ物にならないが、ファミレスレベルならまずまずだろう。
だがしかし。
翠雨のカレーに対する情熱が凄いのか、彼は物凄い勢いで食べ進めていた。
「……お待たせ致しました。海鮮丼のセットと鶏肉のトマト煮です」
「はいはーい! 私が海鮮丼」
「ありがとうございます」
紗凪は慣れているのが全く動じていなかった。火坑もそうなのか、いつもどおりでいたし。
美兎も、ちょっとのことで動じないようにしようとは思うが。無理かな、と諦めるのだった。