名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

第6話 サンタと……?

 何故、どうして。

 どうして、三田(みた)(にしき)に。

 しかも、妖の界隈にいるのだろうか。おまけに、営業日でもないのに楽庵(らくあん)へ当たり前のように来ている。

 美兎(みう)が目をパチパチさせていると、目の合った三田はいつものようにゆるゆると微笑んだ。


「ふふ、湖沼(こぬま)さん。こんにちは」
「こ……んにちは」
「あれ? 湖沼さんのお知り合い?」
「それだけじゃないのよね〜?」
「で」
「あり」
「んす!」
「え?」


 どういうことだ、と真穂(まほ)に振り返れば、前前と彼女に三田を見るように言われた。

 三田はニコニコしているだけだったが、真穂の言葉を耳にした途端、自分の頭に手をかざした。


「……戻れ」


 低い低い、少ししわがれたような音程。

 それが耳に届くと、目の前にいた三田の姿がどんどん変わっていった。

 ただでさえ、銀に近い白髪の量が増えてさらにモコモコに。

 服装は赤と白。黒のベルトが特徴的な、昨日までの人間界のディスプレイだと、よく見かけるような格好に。

 トナカイはいないが、手にはさっきまでなかった真っ白な袋を背負っていて。背も、小柄だった三田と比べようがないくらい長身になった。


「ほっほっほ、メーリークリスマース!」


 そして、その姿通りの謳い文句を口にしたのだった。


「え、え!? マジすご!? マジで本当のサンタ!? 実在してたの!?」


 美兎もポカーンとしてしてしまったが、辰也(たつや)が年甲斐もなくはしゃぎまくった。スマホで写真を撮るのは、さすがに理性が勝ったのかやめてはいるけれど。


御大(おんたい)
「で」
「す!」
「遅かったじゃない?」
「ほっほ。少々手間取ってな?」


 そして、妖達は当たり前のように出迎えている。彼らには、三田、いいや、本物のサンタクロースとは顔見知りなのだろう。

 火坑(かきょう)に振り返れば、涼しい笑顔になっていた。


「今日のパーティー企画者は、御大ご本人なんですよ」
「おんたい……と言うのは?」
「ああ、深い意味はありません。神に属する種族でいらっしゃるのですが、いつのまにか我々妖の間では。サンタクロースさんのことを自然と『御大』と呼ぶようになったんです」
「本当に……本物のサンタクロースが?」


 なら何故、美兎の会社の清掃員に扮していたのだろうか。

 辰也達を相手にしていたサンタクロース本人は、美兎の視線に気がつくとこちらにやってきた。


「湖沼さん、すまんのお。儂はある者に頼まれて、日本に来たのじゃ」
「三田さん……に?」
「ほっほっほ。どちらでも構わぬよ。儂は今しばらく、日本にはおるからの」
「え?」


 誰に、と首を傾げたらサンタクロースは入り口の方へと手招きした。


「ほれほれ。入って来い」


 何回か手招きしたら、しゃらんと弦が弾くような音が聞こえてきた。


「……お邪魔します」
「あ」


 その声は、と驚いているうちに姿が見えた。

 大きな琵琶らしい弦楽器を抱えていて。亜条(あじょう)に似た優しい面立ち。薄く長い緑色の髪。人間以上に白過ぎる肌。

 夢で見た、多分妖。

 彼をそっくりそのまま現実にしたような人物だった。


「おや……(さとり)の御大」


 彼が出てきて、最初に口を開いたのは、火坑だった。

 いったいどう言う人物か気になり、美兎は彼に振り返ったのだった。


「あの……この人は?」
「美兎さん、相当驚きますよ?」
「はい?」
「この方は……美兎さんの遠いご先祖様なんですよ」
「え」
「え!? 湖沼さんって、妖怪の子孫!?」
「そう言うあんたもよ、辰也?」
「え、マジ!?」


 驚く辰也の声もだが、火坑の言葉もすぐに受け止められなかった。

 たしかに、不思議な霊力の持ち主だと常日頃真穂達に言われ続けてはいたのだが。

 まさか、先祖に妖が加わっているとは思わなかったのだ。
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