名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~
第3話『味噌仕立ての牡丹鍋』①
大晦日間近。
仕事納めも間近。
そんな目まぐるしい日々を送ってる、あと少しで新人の名札が取れるデザイナーの湖沼美兎は。
守護についてくれてる、座敷童子の真穂と一緒に恋人が営む小料理屋、楽庵で久しぶりに日本酒を飲んでいた。
いつもの自家製梅酒もいいが、流石に真冬だと冷え込んできたので、火坑にお願いして飲みやすい日本酒を選んでもらったのだ。
淡麗甘口、と言う種類のせいか甘口が好みの美兎でも飲みやすくて、すいすいいくところだった。
「あったまる〜〜……」
「飲み過ぎても知らないわよ?」
「う……」
「まあ、今日くらい飲みたい気持ちはわかるよ?」
「……そうだね?」
そして、客は美兎達だけでない。イタリアンシェフであるろくろ首の盧翔に、火坑の妹弟子である料理人見習いな雪女の花菜。二人はつい先月あたりに付き合うことになり、今日はたまたま一緒に席に着いているわけである。
「そう言うけどね? この子の場合、日本酒でぶっ倒れかけた前科があるのよ?」
「あららー?」
「あの時は……ほんとに、黒歴史!」
「けど。それがなかったら、兄さんにも会えな……かったし」
「ふふ。僕にはいい思い出ですよ?」
「火坑さん!?」
あんな女にあるまじき行為をしたのに、それをいい思い出だなんて。妖であれ、やはりいい人だ。その涼しげな笑顔が眩しく映った。
「さて。花菜ちゃんは違いますが、皆さん体があったまってきたでしょう? 今日はいい猪肉が入ったので。牡丹鍋にしましょうか?」
「お、いいね!!」
「さすがです、兄さん!」
「牡丹鍋好き〜!」
「楽養で食べたあのお鍋ですね!?」
「はい。それと、少し旬が過ぎていますがこれも」
と、取り出してきたのは枝に見紛うくらい細い細い黄色の何か。
なんだろうと首を傾げたら、花菜が手を叩いた。
「姫竹ですね!!」
「花菜ちゃん、ご名答」
「ひめ……たけ?」
「これ、筍なんだよ美兎ちゃん!」
「え、これが筍!?」
たしかに、筍と同じ色合いはしているが。こんなにも細く、長い筍は見たことがない。年明けに予定している、名古屋駅周りを着物で歩くデートにと考えているらしい、柳橋の市場で手に入れたのだろうか。
「狂い咲きならぬ、狂い生えと言いますか。少しだけ仕入れられたので……味噌仕立ての牡丹鍋には本当に最高ですよ?」
「わあ!?」
「アク抜きしてると、美味いんだよなあ?」
「もちろん。仕入れてすぐに済ませたので大丈夫です。お待ちいただいている間に、スッポンスープをどうぞ」
頭はレディーファーストだと、真穂はいいからと美兎と花菜に譲られたが。一個しかないので、公平にじゃんけんで。美兎が勝ったので美味しくいただいた。
「さて。野菜には九条ネギを。豆腐は柳橋市場の行きつけの手製です」
仕上がったタレと具材が煮込まれた小鍋がミニガスコンロに載せられ。
ぐつぐつと煮込まれた、分厚い猪肉に木綿豆腐と九条ネギ。どれもが美味しそうで、よだれが出そうになったのだ。
いただきます、と言う手前で引き戸が開いたのだが。
「あれ? 今日満員?」
聞いたことがない、耳通りの良い男性の声。常連仲間の美作ではないので、知らない妖かと思ったのだが。
「満員なら、出直す?」
だが、一緒だった女性の声に、美兎は思わず席を立ってしまった。
「沓木先輩!?」
「え、湖沼ちゃん!?」
どうしてここに、とお互い思っただろうが。
引き戸がしっかり開いてから見えた先にいたのは、たしかに会社の先輩である沓木桂那だった。
仕事納めも間近。
そんな目まぐるしい日々を送ってる、あと少しで新人の名札が取れるデザイナーの湖沼美兎は。
守護についてくれてる、座敷童子の真穂と一緒に恋人が営む小料理屋、楽庵で久しぶりに日本酒を飲んでいた。
いつもの自家製梅酒もいいが、流石に真冬だと冷え込んできたので、火坑にお願いして飲みやすい日本酒を選んでもらったのだ。
淡麗甘口、と言う種類のせいか甘口が好みの美兎でも飲みやすくて、すいすいいくところだった。
「あったまる〜〜……」
「飲み過ぎても知らないわよ?」
「う……」
「まあ、今日くらい飲みたい気持ちはわかるよ?」
「……そうだね?」
そして、客は美兎達だけでない。イタリアンシェフであるろくろ首の盧翔に、火坑の妹弟子である料理人見習いな雪女の花菜。二人はつい先月あたりに付き合うことになり、今日はたまたま一緒に席に着いているわけである。
「そう言うけどね? この子の場合、日本酒でぶっ倒れかけた前科があるのよ?」
「あららー?」
「あの時は……ほんとに、黒歴史!」
「けど。それがなかったら、兄さんにも会えな……かったし」
「ふふ。僕にはいい思い出ですよ?」
「火坑さん!?」
あんな女にあるまじき行為をしたのに、それをいい思い出だなんて。妖であれ、やはりいい人だ。その涼しげな笑顔が眩しく映った。
「さて。花菜ちゃんは違いますが、皆さん体があったまってきたでしょう? 今日はいい猪肉が入ったので。牡丹鍋にしましょうか?」
「お、いいね!!」
「さすがです、兄さん!」
「牡丹鍋好き〜!」
「楽養で食べたあのお鍋ですね!?」
「はい。それと、少し旬が過ぎていますがこれも」
と、取り出してきたのは枝に見紛うくらい細い細い黄色の何か。
なんだろうと首を傾げたら、花菜が手を叩いた。
「姫竹ですね!!」
「花菜ちゃん、ご名答」
「ひめ……たけ?」
「これ、筍なんだよ美兎ちゃん!」
「え、これが筍!?」
たしかに、筍と同じ色合いはしているが。こんなにも細く、長い筍は見たことがない。年明けに予定している、名古屋駅周りを着物で歩くデートにと考えているらしい、柳橋の市場で手に入れたのだろうか。
「狂い咲きならぬ、狂い生えと言いますか。少しだけ仕入れられたので……味噌仕立ての牡丹鍋には本当に最高ですよ?」
「わあ!?」
「アク抜きしてると、美味いんだよなあ?」
「もちろん。仕入れてすぐに済ませたので大丈夫です。お待ちいただいている間に、スッポンスープをどうぞ」
頭はレディーファーストだと、真穂はいいからと美兎と花菜に譲られたが。一個しかないので、公平にじゃんけんで。美兎が勝ったので美味しくいただいた。
「さて。野菜には九条ネギを。豆腐は柳橋市場の行きつけの手製です」
仕上がったタレと具材が煮込まれた小鍋がミニガスコンロに載せられ。
ぐつぐつと煮込まれた、分厚い猪肉に木綿豆腐と九条ネギ。どれもが美味しそうで、よだれが出そうになったのだ。
いただきます、と言う手前で引き戸が開いたのだが。
「あれ? 今日満員?」
聞いたことがない、耳通りの良い男性の声。常連仲間の美作ではないので、知らない妖かと思ったのだが。
「満員なら、出直す?」
だが、一緒だった女性の声に、美兎は思わず席を立ってしまった。
「沓木先輩!?」
「え、湖沼ちゃん!?」
どうしてここに、とお互い思っただろうが。
引き戸がしっかり開いてから見えた先にいたのは、たしかに会社の先輩である沓木桂那だった。