あの日の帰り道
「謙次、いい加減にしろよ」
頭上で聞こえた相沢くんの声。
その声がいつもと違って、低く、今にも噛みつきそうな声に聞こえて身を竦める。
「お前こそいい加減にしろよ。
咲季ちゃんが怖がってるぞ」
口調は優しいけど、目の前の上杉くんは私を後ろから抱きしめた相沢くんを本気で睨みつけていた。
そのピリッと張り詰めた一瞬が今の私には理解できなかった。
ただ、本能的に怖かった。
いつも優しかった二人がその瞬間だけ別人に思えたから。
「……マジ、ヤベぇかも…」
山本弟くんの焦るような呟きが私の不安を更に煽った。
どうしよう。
私のせいだ。
私が迷惑かけたから二人が苛ついてるっ。
「……ごめんなさい。私のせいで…」
私には謝ることしか出来なかった。
「迷惑かけて……ごめんなさい……」
怖さで身体が震える。
でも二人に喧嘩してほしくなかった。