あの日の帰り道


「昨日の子とは確かに付き合った時期もあるけど今は本当にただの近所の知り合いってだけだよ。もう一年以上会ってなかったくらい」



悲しげなトーンで昨日の事を話しだすから胸が苦しくなる。



「咲季にだけは誤解されたくないんだ」



私の肩に頭を乗せてキツく抱き締められた。



誤解なんてしてない。

知っててわざとそう言ったのに。



抱きしめられて、会いに来てくれて、
それが泣きそうになるほど嬉しいと思ってしまう。



「………俺は咲季が好きだ。
金田にも謙次にも他の誰にも譲れない。
………咲季、俺の彼女になって。俺を好きになって」



耳元で、あの相沢くんが
自信なさげに呟く声が聞こえて
好きだとはっきり告げられて

堪えていた涙が自然と溢れ出した。



「咲季」



相沢くんに自分の名前を呼ばれる事が嬉しい。

何も考えないでいられる相沢くんの腕の中にいる事が嬉しい。

彼女になってと言われた事が嬉しい。



なのに。



素直にそう言えない。


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