あの日の帰り道
「………咲季?」
何かに気付いた相沢くんが頭を上げて私の様子を伺う。
抱きしめた腕は少し緩んだけど離れる事はなく、片手で頭を撫でてくれる。
「………咲季、俺の事好きになってくれる?」
相沢くんにしがみついて俯いて泣いている私に問いかけられた言葉。
無意識に頷いていた。
けれど。
「俺の彼女になってくれる?」
次に問いかけられた言葉には頷けなかった。
「………」
頷けない代わりかのように感情が昂ぶって涙が溢れた。
相沢くんの手が頬を包む。
「………咲季は俺の事、好き?」
顔を上げられて相沢くんの顔がすぐ目の前にあった。
相沢くんの切な気な瞳に見つめられていたら勝手に口が動いた。
「………好き。相沢、くんが、好き……」
声に出すとまた涙が溢れて視界が歪む。
「俺も好きだよ」
確かにそう聞こえた。
けれどその言葉を噛みしめる余裕はなかった。