あの日の帰り道


「五月蠅いっ!このストーカーっ!!
伊藤さんの名前を気安く呼ぶなっ!!」



暴れる金田を周囲の乗客らが怪訝に見つめる中、彼女の声は凛と響き渡った。



「それ以上伊藤さんの名前を呼ぶなら誰に何を言われてもアンタを警察に突き出すからねっ!」



乗客らの奇異の視線が、彼女の言葉で同調する視線に変わった。



「ウソ?ストーカー?ヤバ…」

「警察付き出せばいいのに」


あちこちでひそひそと囁く声に後押しされて山本弟くんが金田を拘束した。



「マジで警察行くか?」



山本弟くんは金田にそう問いながら仲間と一緒に隣の車両へと金田を連れて行った。



「もう大丈夫だよ伊藤さん」



さっきの凛と張った声と打って変わって
小声で優しく話しかけてくれる彼女。



「あ、ありがとう」



やっと声を出してお礼を告げると
自然と涙がこぼれ落ちた。


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