あの日の帰り道



相沢くんの表情に気付いていた。
けれど、私は何も言えなかった。



「咲季?………俺、咲季に何かした?」



哀しげな瞳が私を見つめるが直視出来なくて俯いた。



本当は首を横に振ってそんなことないと言いたいのにそれが出来なかった。



「………今日、仕事中も上の空だったのは俺のせいだったの?」



首を横に振って違うと言いたいのに動けない。



今すぐ相沢くんに抱きついて大丈夫だと伝えたいのに。



動けない。

声も出ない。

なのに心臓だけが異常に脈打っていた。



ドキドキと煩い胸に手を当てぎゅっと服を握りしめた。



それを見ていたからかわからないけど、相沢くんが突然動いて私を抱きしめた。



そして頭上から囁いた声。



「ごめん。俺、何したのかわからなくて……。
でも咲季に避けられたくない」



抱きしめる腕に力が込められた。


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