あの日の帰り道


オーナーさんに促されて店内に入るとガラリと世界観が変わった。



「いらっしゃいませ。寒かったでしょう?どうぞ温まって」

カウンター横から出てきた女性はお盆に湯気の立つソーサーを2つと可愛いポットを乗せて、そのまま私達をソファに促した。



「ハーブティーは平気かしら?」

「はい。ありがとうございます」



私が返事をするとテーブルに置いたソーサーにハーブティーを注いでくれた。



「随分と素敵な彼ね。
今日はいっぱい楽しめたかしら?」



……今日?

あ。クリスマスか。

つい1時間半前までバイトだったから忘れてた。

きっと日中に彼とデートしてたと思われたんだろうな。



「はい。ここでも楽しみます」


ハーブティーを手に取りながら営業スマイルで当たり障りない返事をしてみた。



「彼女さんも凄く可愛いらしい方ね。
クリスマスの日に最後のお客様がこんなに理想的な美男美女のカップルだなんて、素敵すぎるわっ!
食事は無いけれどどうぞゆっくり寛いでね」



優しい香りのハーブティーを一口飲むと口の中が温かく潤った。


けれど、女性の最後の言葉が気になった。


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