あの日の帰り道



「相沢くん」



パタパタとスリッパの音を鳴らしてリビングのソファに座る相沢くんの元まで小走りした。



名前を呼ばれたからか相沢くんがすぐにソファから立ち上がった。



「何かあった?」

私に声をかけながら不審な顔で私を見つめてきた。



その顔は、金田に遭遇した時に似ていたから慌てて釈明する。



「だ、大丈夫。何も無いよ。でも温泉のお湯が凄いの!入ってたら肌がツルツルになったんだよ。相沢くんも早く入っ…」



早く入って来たら?と言いかけた時に相沢くんに手首を掴まれてグイッと引っ張られながら歩きだす。



相沢くんのその強引さに思わず口を閉じてしまう。



でもすぐにさっきまでいた洗面台に戻ってきた。

相沢くんはそのまま洗面台横に積んである真新しいタオルを広げて私の首元に巻き付けた。



「………相沢くん?」



無言の相沢くんに鏡越しで名前を呼ぶと一瞬だけ目が合ってすぐに逸らされた。


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