あの日の帰り道
助っ人参上
「謙次」
私の腕を掴んだままの相沢くんが眼鏡の男子を見て呟いた。
「朝からナンパ?」
にこやかに微笑んだ眼鏡男子が相沢くんと同じテーブルの席に座った。
「ナンパ?……あ、ごめん伊藤さん」
眼鏡男子にナンパと言われ自分が私の腕を掴んでた事を認識した相沢くんが慌てて手を離してくれた。
「大丈夫。片付けてくるね」
片付けたついでに私もトイレに寄った。
少しして席に戻った私に声をかけてきたのは眼鏡男子の方だった。
「伊藤さん?
晃司と同じバイトしてるんだって?」
眼鏡男子はにこにこしながら私を見る。
「え?あ、うん。………相沢くんの友達?」
「そう。上杉謙次よろしくね。謙ちゃんて呼んでね」
自己紹介する上杉くんに面食らいながらも私も自己紹介した。
「伊藤咲季です」
「咲季ちゃん?フルネームで答えてくれるなんてめっちゃ嬉しいけど、もう他の男にはフルネームで答えちゃダメだよ」
笑顔で何気に注意されて気付いた。
「それは上杉くんが先にフルネームで言ったからだよ」
いきなり咲季ちゃん呼ばわりされて馴れ馴れしいとも思ったけど、フルネームでの自己紹介を注意してくれたから悪い人ではなさそうだと思った。
「謙ちゃんって呼んでよ〜。ってか、晃司が女の子を口説いてるなんて初めて見たからビックリしたよ」
「口説いてない」
余程気心が知れた相手なのか、いつもポーカーフェイスの相沢くんが珍しく拗ねたように言った。