あの日の帰り道


「…………」



いきなりすぎて言葉が出なかった。

いつも"伊藤さん"と呼んでいた相沢くんがまさかそんな事言ってくるとは思わなかったから。



「好きに呼んでいいんだよね?」



私が何か言う前に上杉くんが釘を刺してきた。



「………わかった。いいよ」



盛大なため息をついて私は自分の言った言葉を猛省した。



「でも、受験生なら夏休みはバイトしてる暇なんてないんじゃない?」



上杉くんはまだ教科書を返してくれない。



………確信犯だ。

自分が教科書を持っていれば私が話をするとわかっていてやってるんだ。



そう気付いた私は返事をすることなく別の教科書を取り出した。



「咲季」



無視して勉強をしようとしたのに名前を呼ばれて思わずドキッとした。



「邪魔してごめん。いつもなら謙次は初対面でこんな煩い奴じゃないんだけど……」



上杉くんから教科書を奪った相沢くんが謝りながら私に教科書を返してくれた。


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