あの日の帰り道



そんな時だった。



「咲季?」



聞き覚えのある声に身体がギクリと反応した。



けれど、どう返事していいのかわからずそのまま固まる。



「………もしかして具合悪いのか?」



心配そうな声と、テーブルに伏せた頭を優しく撫でる手に申し訳なさが募る。

そのまま頭だけ左右に動かして否定する。



「今日、謙次に何か言われた?」



今日は上杉くんと登校したことを知ってる相沢くんが心配する。

その間ずっと頭を撫でてくれるから、これ以上無言でいることが出来なかった。



頭を少しだけ上げ俯いたままで口を開く。

「バイトお疲れ様。なんでもないよ。ちょっと気落ちしてただけだから」



上杉くんは関係ない。そう言いたかっただけなのに……。



「気落ち?学校で嫌な事あったの?」



……相沢くんは心配性だな。

きっと今は私が俯いている限り何かと心配するんだろうな……。



そう気付いていながら、まだ頭の上で優しく撫で続けている手が心地よくて顔を上げられないでいた。


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