あの日の帰り道


「……今日、謙次らとカラオケ行ったんだって?……楽しかった?」



きっと上杉くんがメールしたんだろうな。



「……うん。楽しかったよ」



人生初のカラオケは皆が歌っているのを聞いてただけだが見ていただけで楽しかった。



「そっか。俺も咲季の歌、聞きたかったなぁ」



相沢くんの呟いた言葉に、私は何も答えなかった。



初カラオケだったなんて言ったら女友達がいない事がバレると思ったから。



今までならそんな事気にしたことなかったのに……。



そんな妙な見栄を張る自分が滑稽に思えた。



彼氏なんていらない。



自分で決めた自分の言葉が今の私には忌々しかった。



「今度は一緒に行こうな」



そんな社交辞令にすら頷けない。



中学に入ってから色々考えて立てた目標を5年間ひたすら頑張ってきた自分。

相沢くんを好きになって気持ちがコントロール出来なくなってる自分。




結局どちらも上手く両立させられない不器用な自分に自嘲の笑みを洩らす。



………私って馬鹿だったんだな……。




自分は勉強を頑張ったからそれなりには出来る方だ。


でも自分は頭が良いなんて思ったことは一度も無かったけどまさかこんなに馬鹿だったとは思わなかった。



今まで男でも女でも好きな人なんていなかった。



女友達さえいない自分が異性を好きになるなんて考えた事もなかった。



好きになるのがこんなに苦しいだなんて知らなかった。


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