The Math Book

 授業が始まってから10分ほどが経過した。色々な考えが頭を支配して混乱していると自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 振り返ってみるとそこには塾長が立っていた。

 あまりに驚いて姿勢を正す。塾長が困った顔ををしながら口を開いた。

「ごめんね、Z先生は電車の遅延で今からこちらに向かうそうです。自習して待っててくれる?」

 電車の遅延。どうやらZ先生は電車の遅延に巻き込まれてしまったらしい。

 理由を聞いて私は一気に安堵した。

「そうですか。もちろん、大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。大丈夫?何か自習する教材ある?」

 この時、自分の教材を持っていた覚えすらない。

 だがどういう訳か私は塾長の言葉に甘えて、彼に自習用のテキストを持ってきてもらった記憶がある。

 
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