花魁夢楼〜貴方様どうか私を買っていただけないでしょうか〜

夕顔がそう言うと、男の子は泣くのをやめて『本当！？約束だからね！』と笑う。そして夕顔の手を取って立ち上がる。

その約束をした日に、夕顔はお金を手に入れるために両親に吉原に売られてしまったのだ。

懐かしいことを思い出していると、今夜のお客がやってきたようだ。廊下をゆっくり歩く音が聞こえてくる。夕顔は姿勢を正し、凛とした表情になった。これから仕事が始まる。

スッと襖の開いた刹那、夕顔はゆっくり頭を下げる。そして「ようこそおいでくんなまし」と言う。

「こんばんは……」

何と声をかけたらいいのか迷ったような声に、夕顔はゆっくりと顔を上げる。そこにいたのは普段お客として来る男性たちとは違い、地味な着物を着た男性がいた。その服装を見て夕顔は少し驚く。

「主さん、お武家の人間では……」

「そうだ。でも、別に武家の人間だからといってここに来てはならないという法律があるわけではないだろう」

男性はそう言い、座る。夕顔はニコリと笑い、「お茶を用意しなんす」と立ち上がった。