花魁夢楼〜貴方様どうか私を買っていただけないでしょうか〜

「失礼いたします」

そう言い、夕顔が襖を開けると夕顔と同じくらい豪華な着物を着た女将が少し戸惑った表情で座っていた。その前にはあの夜一度しか見たことがない後ろ姿がある。

「主さん、あの時の……」

夕顔が驚いて呟くと、クルリとその武士が振り返る。やはりあの夜に夕顔に会いにきた男性だった。

「その男性がお前を身請けしたいと突然押しかけてきて……」

女将の戸惑った言葉に、夕顔は驚きが隠せなかった。身請けとは、この吉原から出る唯一の方法だ。夕顔はこの男性に買われた。そして、この男性の妻になることがここで決まったのだ。

「ここに金は置いておく。こいつはもう花魁夕顔ではない。……私の妻だ」

男性は頬を赤く染めた後、女将に風呂敷に入入れられたお金を束を置く。そして女将がまだ戸惑っている間に男性は夕顔の手を取った。

「……行くぞ」

男性特有の大きな手に包まれ、夕顔の目には涙があふれる。ようやく自由になれた。普通の女性になれたのだ。