会社の後輩に甘やかされています
「大野くん、ご飯一緒に食べ…。」

「樹!今日泊めてよー。」

意を決して口を開いたのに、その言葉は他の言葉に掻き消される。
突然大野くんの腕に絡みつく女性に、私は言葉を失った。

彼女は大野くんの持っている袋を覗き込むと、遠慮のない口調で言う。

「私もカツ丼食べたい!2つあるじゃん。」

「これは姫乃さんのだから。」

大野くんがさっと避けつつ、私を見る。

「あ、えーっと、よければどうぞ。」

そもそもまだお金も払ってないし、大野くんの彼女のようなので二人で食べた方が良いと思う。カツ丼特盛は魅力的だったけど、また来月買えばいいし、それよりも早く帰らなければ私はお邪魔虫のような気がしてならない。
そそくさと退散しようとする私の袖を、彼女が掴んだ。

「ごめんなさい!そんなつもりじゃなくて。」

「いいのいいの。二人で食べて。」

「ダメです。もしかしてお兄ちゃんの彼女ですか?」

「えっ、かっ、えっ?!」

大野くんの彼女だと思っていた女性からまさか“彼女ですか”と聞かれるとは思いもよらず、私はますます混乱する。
ポカンとする私に大野くんは静かに言った。

「会社の先輩だよ。」

「えーっと、お兄ちゃん?」

「妹の(なぎさ)です。」

私は渚ちゃんと大野くんを交互に見比べる。
彼女…じゃなくて、妹?

「あ、へぇー。可愛い妹さん。大野くんお兄さんだったんだ。あ、どうぞどうぞ、二人で食べて。」

「いや、ダメですって。」

「渚は帰れ。」

それぞれの主張のすえ、なぜか三人で一緒にごはんを食べることになってしまった。
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