会社の後輩に甘やかされています
恋人の練習
日曜日。
デートという言葉に踊らされているのだろうか、なかなか寝つけなかったし朝も早くに目が覚めてしまった。
クローゼットを開けて服の少なさにガッカリする。デートってどんな服を着ていけばいいのだろう。
散々出し入れして考えたあげく、結局出勤時と変わらない服になってしまった。
そう、これは練習なんだから、ダメなところは大野くんに指摘してもらえばいいのだ。

私がデートに選んだ場所は博物館だ。
デートっぽく博物館前で待ち合わせと決めたのに、アパートを出たところでさっそく大野くんに出会った。

「一緒に行きますか。」

「行きましょう。」

意気込んでいたのに拍子抜けしてしまって、何だかくすぐったくて笑えてしまった。

「常設展も好きだけど今は特別展がやってて、見に来たかったの。」

チケット売場で”常設展+特別展”というお得なセット券を買って、私はウキウキだ。博物館は一人でよく来るので、気を抜くとこれがデートだということを忘れてしまいそうになる。
そんな私を見て、大野くんは静かに笑っていた。

「姫乃さん、面白すぎる。」

「えっ、何か間違えた?」

「間違ってないですよ。正解はないけど、行きたいところ、水族館とか遊園地とか言うかと思ったのに、デートで博物館って。渋いよね。」

言われるとそうかも。
とたんに恥ずかしくなって私は焦って言い訳をする。

「だって、デートしたことなくて。」

「嘘でしょ?」

「本当だよ。だから練習したいんだってば。もう、これ以上辱しめないで。」

目を丸くして驚く大野くんの背を押して、無理やり特別展の入口まで連れていった。

「はいはい、じゃあ姫乃さん、デートなんだから俺のことは名前で呼んでよ。」

「ええっ!」

「彼氏のこと名字で呼ぶ?呼ばないよね?」

「うー、樹くん。」

「はい、よくできました。じゃあ行きましょう。」

慣れなくて困惑する私に対して、樹くんは涼しい顔をしている。
すでに経験の差が現れているようだ。
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