会社の後輩に甘やかされています
「はぁー。」

帰りの電車の中、思わずため息が漏れた。

彼氏ってどうしたらできるんだろう?
ガラス越しに映るカップルをチラリ盗み見しながら、私はまた大きく項垂れる。
世の中にはこんなにもカップルで溢れているのに、私はいつになったら彼氏ができるのだろう?
もう一度ため息が出そうになったとき、タイミングよく電車が揺れ、私はバランスを崩して目の前のガラスへ頭をぶつけた。

「いたっ!」

鈍いゴチンという音と私の小さな悲鳴は、一瞬のうちに電車内の乗客の視線を集める。

恥ずかしさと痛さで頭を押さえながら隠れるように慌ててうつむいた。

「大丈夫ですか?」

ふいに声をかけられ振り向くと、そこには心配そうに覗き込む大野くんがいて、私は心臓が跳ねた。

「…だいじょうぶ。」

と言ってみたものの、知り合いに見られていた羞恥心で一気に顔が赤くなるのがわかる。

「お、同じ電車だったんだね。」

「姫乃さんどんくさいですね。飲み会中、なんか無理してる感ありましたけど、悩み事でもあるんですか?」

悩み事ならあります!
と心の声が叫んでいるけれど、“どうしたら彼氏ができるのか”なんて事を大野くんに言えるはずがなく、私は愛想笑いを浮かべた。

「えっ?いや?ないよ。大丈夫。ちょっと飲み過ぎたのかなー?えへへ。」

愛想笑いでごまかそうとしたのに、大野くんはしれっとした顔で心臓に悪いことを言う。

「じゃあ彼氏に迎えに来てもらえばいいじゃないですか?」

「えっ、うん、そうかな?そうだよね?でも忙しいかも?」

上手く受け答えができず、しどろもどろになってしまう。
ちょうど駅に到着するアナウンスがあり、私はそそくさと降りる準備をした。

「私駅ここだから、じゃあね。」

「俺もここです。」

「えっ?」

扉が開くと同時に大野くんが降りる。私もその後を追うように急いで降りた。
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