ハナヒノユメ
「先輩、こんにちは。」

入ってそう言うと、もう気づいたみたい。

今日は、反応が早い...。

「さくら、こんにちは。」

といった。

それで、肩に触れてあげるとにっこりする。

ほっこりする...。

「今日は、木下さんっていうお医者さんとも少しお話しできたよ。」

さっきの人のことだろうな...。

あの人も随分とご機嫌だった。

わざわざ報告してくれるぐらいだから...。

「さくらは最近大変かな。
きっともう受験生だもんね。」

「いえ...。」

「早く良くなって勉強見てあげるとか、恩返しできないかな...。」

「いえ、そんな...。」

でも、確かにそれは心強いかも。

最近勉強は行き詰まってるというか、放り投げてる状態だから。

「やっぱり、大変なときもあると思うから、そのときは無理しないでね。
ここまで側にいてくれただけでも、本当に救われてる。うれしいんだ。でもこれ以上時間を割いてもらっているのも、なんだか申し訳ない気がしてね。」

...。

そっか。

私も同じ立場だったら、お見舞いに来てくれる人のこと申し訳ないって思えるかな。

そんなこと考えてなかったから...前の私は彼を見捨てようとしてしまった。

こちらこそ申し訳ない。

「ごめんなさい...?」

手に書かれた文字の意味が彼にはまだ分からないようだ。

だから、少し長くても、伝えようとした。

「ああ...なんだそんなこと、気にしなくていいんだよ。君が僕の元に来なくても、君にはなんの落ち度もない。責任なんて何もないんだ。それでもよかったんだよ。」

「でも...。」

「一度でもここで僕に向き合ってくれたでしょ。本当はそれだけですごくありがたいよ。後ろめたく思う必要なんて全くない。
むしろ、本当に、申し訳ないくらいありがたいというか...。」

そうかな...。

なんだか晴れない気持ちでいると、彼は小さなぬいぐるみをこちらに手渡した。

ずっと大切にしてくれたぬいぐるみ。

「これも、君がくれたんだよね。」

「はい...。」

「きっと、この子かわいいだろうね。
さくらによく似て。」

「え...。」

かわいい...?

いや、これはそういうんじゃない...。

...。

何考えてるんだろう。

彼には、彼女がいるのに。

もう見捨てられてしまったんだとしても、そのことを面と向かって彼に伝えていない以上は、付き合ってるのには変わりないんだ...。

そんな変なことまで考えちゃだめだ...。

これからすごく仲良くなれたとしても、それは友だちの範囲内なんだから。

手を...握っているのだって...。

握手みたいなものだし...。

「...ごめん、変なこと言っちゃったかな。」

「いえ。」

やだな...気を遣わせちゃった...。

見えなくても、こういうの感じはするだろうから。
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