ハナヒノユメ
彼は病室でひとりだった。

外見…顔色が悪くて、表情がない。

頭には包帯を巻いている。

彼はこちらに一度ゆっくりと視線を向けたが、特に何も反応することはなかった。

「歩。私だよ。
今日は後輩の桜ちゃんも一緒に来てくれたの。」

そう言って、石井先輩は花瓶に差してあった花を手慣れた手付きで取り替える。

それでも、彼は少し俯いたような姿勢のまま動かなかった。

その目には、いささかの生気も宿っていない。

端麗な顔立ちと相まって、まるで、人形のようだ。

「今日は気分はどう?
雨が降ったからあまり優れないかな。」

彼の肩に手が置かれる。

彼の目が少し見開かれ、数回瞬きをした。

触れられたことは分かるみたい。

「良ければ、歩に声かけてくれる?」

「はい。
あの…保坂先輩、私、石井先輩の後輩で、安東桜っていいます。
委員会では、お世話になりました。」

…これでいいのかな。

「歩、桜ちゃんのこと覚えてる?
私と一緒に部活やってて、よくペア組んだんだよ。」

「はい。石井先輩には、今でもよくアドバイスとかしてもらって、ほんとに助かってるんです。」

そうやって、何度か声をかけたけど、彼は特に反応しなかった。

虚ろな目が、下を見つめている。

「今日は私たちもう帰るね。」

「失礼します。」

私たちはそうやって病室をあとにした。
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