ハナヒノユメ
憂鬱な気持ちで家に戻ると、諦めの悪い父親の彼女だかがいて、他人の家にも関わらず、リビングのソファで寝転んでいる。
...そういうものなのだろうか。
人と人とが結ばれるって、そんなに脆いものなのか。
...今、考えて確信を得られる自信はない。
見なかったふりをして、自分の部屋に行こうとすると、
「...桜ちゃん?」
大した物音も立てていないのに、気づかれたようだ。
「帰り遅かったね。
まだ塾行ってるの?」
「はい。今月いっぱいでやめる予定ですけど。」
「そうなんだ。
きいたよ。先輩のお見舞い行ってるんだってね。」
「はい。」
「...何か良くないことあった?
暗い顔してるけど。」
「いつもこういう顔です。」
「そっかぁ...それは困ったな。
でも、それもいいかもね。
無理に明るい顔してるよりは。」
なんだか、最近こうやって分かったようなことを言われることが多くなった気がする。
「自分で解決できそうなの?」
「解決というか...気持ちの問題というか...。
ただ、私が世間知らずなだけです。」
「あらら...。どんな現実知っちゃったんだろうねぇ。桜ちゃんは可愛いし、まだ子どもなのに。」
なおさらこの人はこうやって理解者のふりをするのか。
さっきの人たちに比べればまだ悪い気はしないけど。
「よければ少し話してみてよ。
今の私はバリバリに家庭参入希望だけど、それでも他人だって事実は変わらないからさ。」
「他人ってこと、そんなに関係あるんですか?」
「あるよ。
ほら、心理カウンセラーとかって、大体他人じゃん?一見、統計的で分かったような口利かれるイメージあるけど、案外専門家は侮れないのよ。」
「でも、専門家じゃないですよね。」
「やーね。私は恋愛の専門家よ?
色々やらかしてめちゃくちゃ学んでるから。」
恋愛...。
やっぱりそういう絡みの話に...。
やっぱりってなんだ...?
「それに、他人の大人は皆専門家と同じ。他人が他人であることのプロなの。
それが前提なのよ、社会って。」
「それでも家庭参入希望ですか。」
「おっしゃるとおり。
でも、そうやってわざわざ粗探ししてくれるってことは、私の存在にも慣れてくれたんだね。受け入れてくれた?」
都合が良すぎて、掴みどころがないな、この人。
「それに、純粋に興味あるのよ。
桜ちゃんがどんなことで悩んでるのかなって。」
...確かに、ここまで不器用で他人事な話し方は、大人ってやつだ。
自然と話をしたくなってしまう。
「入院してる先輩は、私以外お見舞い誰も来ないんです。前は先輩の彼女が来てたんですけど、その彼女も浮気してて、私に頼んできて...。」
「まじで?その女相当やらかしたねそれは。
それで、仕方なくお見舞い行ってるって感じ?」
「仕方なくっていうか...私自身も先輩とお話しできるようになって嬉しいから、そういう押し付けられたって気持ちではなくなったんですけど...。」
「うん。」
「今日、やっとお姉さんが来たと思ったら、その人が、先輩がこうなったこと、喜んでいるみたいでした。それに、いっそのこと...死んでしまえばよかっただなんて。何があったか分からないですけど、そんなこと、大人が言うのかなって。」
「...普通は言わないな。というか、言う資格もないよ。人はどうあっても人だからね。それを否定するなんて絶対駄目。」
「そうですよね。しかも、それを本人の前で言うなんてこと...。」
「うん。それは駄目だ。許さなくていいよそれは。確かに、何かしら家庭の事情はあったかもしれないけど、それでも駄目なものは駄目だから。」
「...その人があまりに平気でそう言うから、私、自信もなにも無くなってしまって。
私のしてきたこともそうですし、なにより...あんなことを言われてしまった彼に、安易に励ましの言葉をかけても...。」
「...私が思ってたより、ずっと難しい悩みだね。でも、きっとそういうあったかい気持ち、彼には伝わってるんじゃないかな。
感謝の言葉、言われたでしょ?」
「はい。それに、謝罪も...。」
「悲しいよね。言われちゃった彼もそうだけど、何より言った人自身が。
そんなことでしか、自分の意思表示を正当化できないだなんて。
そう思えば、いままで腐ってたと思ってた私もまだマシかも。」
「私...どうすればいいんでしょうか?」
「桜ちゃんは、その人のこと好き?」
「それは...まだよく...。」
「なるほど。四捨五入したら好きなんだね。
別に恋愛とかって意味じゃなくても。」
「...いえ、
やっぱり好きです。」
「おーっ。言い切ったね?
じゃ、なるべくいつも通り側にいてあげればいいよ。特別何かするのも手ではあるけど、1番効果あるのはやっぱり側にいることだと思う。」
「そうします。」
「あと、やっぱり覚えておいたほうがいいのは、自分が非力だとか、偽善者だとかって決めつけちゃ駄目だってこと。
桜ちゃんみたいにほんと良い子ならなおさら自分に自信を持つべきだよ。」
「...なるほど。
思ったより良いこと言うんですね。」
「うん。役に立ったならよかった。」
「ありがとうございました。」
...そういうものなのだろうか。
人と人とが結ばれるって、そんなに脆いものなのか。
...今、考えて確信を得られる自信はない。
見なかったふりをして、自分の部屋に行こうとすると、
「...桜ちゃん?」
大した物音も立てていないのに、気づかれたようだ。
「帰り遅かったね。
まだ塾行ってるの?」
「はい。今月いっぱいでやめる予定ですけど。」
「そうなんだ。
きいたよ。先輩のお見舞い行ってるんだってね。」
「はい。」
「...何か良くないことあった?
暗い顔してるけど。」
「いつもこういう顔です。」
「そっかぁ...それは困ったな。
でも、それもいいかもね。
無理に明るい顔してるよりは。」
なんだか、最近こうやって分かったようなことを言われることが多くなった気がする。
「自分で解決できそうなの?」
「解決というか...気持ちの問題というか...。
ただ、私が世間知らずなだけです。」
「あらら...。どんな現実知っちゃったんだろうねぇ。桜ちゃんは可愛いし、まだ子どもなのに。」
なおさらこの人はこうやって理解者のふりをするのか。
さっきの人たちに比べればまだ悪い気はしないけど。
「よければ少し話してみてよ。
今の私はバリバリに家庭参入希望だけど、それでも他人だって事実は変わらないからさ。」
「他人ってこと、そんなに関係あるんですか?」
「あるよ。
ほら、心理カウンセラーとかって、大体他人じゃん?一見、統計的で分かったような口利かれるイメージあるけど、案外専門家は侮れないのよ。」
「でも、専門家じゃないですよね。」
「やーね。私は恋愛の専門家よ?
色々やらかしてめちゃくちゃ学んでるから。」
恋愛...。
やっぱりそういう絡みの話に...。
やっぱりってなんだ...?
「それに、他人の大人は皆専門家と同じ。他人が他人であることのプロなの。
それが前提なのよ、社会って。」
「それでも家庭参入希望ですか。」
「おっしゃるとおり。
でも、そうやってわざわざ粗探ししてくれるってことは、私の存在にも慣れてくれたんだね。受け入れてくれた?」
都合が良すぎて、掴みどころがないな、この人。
「それに、純粋に興味あるのよ。
桜ちゃんがどんなことで悩んでるのかなって。」
...確かに、ここまで不器用で他人事な話し方は、大人ってやつだ。
自然と話をしたくなってしまう。
「入院してる先輩は、私以外お見舞い誰も来ないんです。前は先輩の彼女が来てたんですけど、その彼女も浮気してて、私に頼んできて...。」
「まじで?その女相当やらかしたねそれは。
それで、仕方なくお見舞い行ってるって感じ?」
「仕方なくっていうか...私自身も先輩とお話しできるようになって嬉しいから、そういう押し付けられたって気持ちではなくなったんですけど...。」
「うん。」
「今日、やっとお姉さんが来たと思ったら、その人が、先輩がこうなったこと、喜んでいるみたいでした。それに、いっそのこと...死んでしまえばよかっただなんて。何があったか分からないですけど、そんなこと、大人が言うのかなって。」
「...普通は言わないな。というか、言う資格もないよ。人はどうあっても人だからね。それを否定するなんて絶対駄目。」
「そうですよね。しかも、それを本人の前で言うなんてこと...。」
「うん。それは駄目だ。許さなくていいよそれは。確かに、何かしら家庭の事情はあったかもしれないけど、それでも駄目なものは駄目だから。」
「...その人があまりに平気でそう言うから、私、自信もなにも無くなってしまって。
私のしてきたこともそうですし、なにより...あんなことを言われてしまった彼に、安易に励ましの言葉をかけても...。」
「...私が思ってたより、ずっと難しい悩みだね。でも、きっとそういうあったかい気持ち、彼には伝わってるんじゃないかな。
感謝の言葉、言われたでしょ?」
「はい。それに、謝罪も...。」
「悲しいよね。言われちゃった彼もそうだけど、何より言った人自身が。
そんなことでしか、自分の意思表示を正当化できないだなんて。
そう思えば、いままで腐ってたと思ってた私もまだマシかも。」
「私...どうすればいいんでしょうか?」
「桜ちゃんは、その人のこと好き?」
「それは...まだよく...。」
「なるほど。四捨五入したら好きなんだね。
別に恋愛とかって意味じゃなくても。」
「...いえ、
やっぱり好きです。」
「おーっ。言い切ったね?
じゃ、なるべくいつも通り側にいてあげればいいよ。特別何かするのも手ではあるけど、1番効果あるのはやっぱり側にいることだと思う。」
「そうします。」
「あと、やっぱり覚えておいたほうがいいのは、自分が非力だとか、偽善者だとかって決めつけちゃ駄目だってこと。
桜ちゃんみたいにほんと良い子ならなおさら自分に自信を持つべきだよ。」
「...なるほど。
思ったより良いこと言うんですね。」
「うん。役に立ったならよかった。」
「ありがとうございました。」