ハナヒノユメ
それから、病室で勉強を教えてもらうようになった。

...びっくりだ。

塾でも個別指導だったはずなのに、こっちのほうが分かりやすい。

私の苦手なところを瞬時に把握してくれているみたい。

それだけだったらまだしも、その克服が全然苦じゃないというか。

気づいたら直ってる...みたいな。

不思議と、今まで頭を抱えても解けなかった問題が、今ではするすると流れ作業のようにできるようになっていった。

暗記問題も、暗記しようと思わずに気づいたら頭の中に入ってるから、不思議な感覚になる。

これが、この人の実力...?

もしかして、今まで悩んでたことってこんなに簡単に解決しちゃうの...?

だとしたら、わざわざ塾に払ったお金や手間ってなんだったんだろう。

「先輩、模試の偏差値がこんなに上がりました...。第一志望もA判定になって...。」

「ほんとだね。さくらがんばったもんね。えらい。」

がんばったもんねえらいで済まされるような飛躍じゃないんだけど...。

これはなんかもう、さすがに素直に感謝しなきゃ...。

「ありがとうございます。」

「僕は何も。至らないぐらいだったけど。
さくらがすぐ分かってくれてこっちも助かってたんだよ。」

...どれだけ謙虚なの...?

「みんなにびっくりされました。
前まで塾に通ってたんですけど、それより上がってて。」

「役に立てたなら嬉しいな。
でも、元々基本的なことは身についていたようだったし、考え方もしっかりしていたな。塾での積み重ねがあったからこそ今ぐんと伸びたんじゃないかなって僕は思うよ。」

「そ、そうなんですか...?」

「うん。今までのさくらの努力は決して無駄じゃないってことだけは言える。
でも、そのことに気づくのは、意外と自分だけじゃ難しいんだよね。」

そうなんだ...。

「でも、やっぱり先輩が教えてくれたからだと思います。すごく分かりやすかったです。」

「そう思ってくれるなんて嬉しいな。
また、困ったら言ってね。」

「はい。」

...いい拠り所を手に入れたような感覚だ...。

でも、やっぱり悪い気はしないというか。

頼ってくれていいって言ってるんだし、頼ってもいいんだよね...?
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