ハナヒノユメ
雨が降ってきた。

雷の音も少しずつ近づいてくる。

こんな日だけど、私は今日も彼のお見舞いに行く。

なんとか、本降りになる前に病院にたどり着いた。

そして、病室に入る。

その途端、急にピカッと辺りが光った感じがして、まもなく物凄い音がした。

あ...。

...注視したつもりだったが、反応はなかった。

「歩さん、大丈夫ですか?」

彼の顔が青白く浮かぶように見えた。

...。

少し上を向いてる。

ここのところ、ずっとこんな感じだ。

しかも、その目線が、日に日に少しずつ上へと上がってきているような...。

何が...見えているんだろう。

「さくら...いる?」

ゆっくり、こちらを向いた。

「はい...。」

しばらく、奇妙で近寄れなかったけど、そこでようやく彼の肩に触れる。

...。

触れられた自分の肩の方に目をやっている...。

それが、今までの反応と少し違って...。

感情を失った人形のような顔が、私の手を見つめている。

その目は、さっき上を向いていたものと同じで...。

「歩さん...?」

「...。」

ずっとそのまま動かなくて...。

「歩さ...。」

背筋が凍りつくようだった。

なにか、彼の見てはいけない一面を覗いてしまったようで。

彼の冷たい心を、知ってしまったような。

怖くなって、手を離した。

...なにこれ。

...なんでこんなに...。

...!!

鋭い雷の音が腹に響く。

俯いた彼は、青白くて、何故か...。

この世のものではないような...。

(私のことも分からない人形みたいな歩なんて...気持ち悪いんだよね。)

...。

「人形...にんぎょう...、
あやつりにんぎょう...?」

なぜか、私は咄嗟にそう口に出していた。

その得体の知れない、
気味の悪い言葉に、固まって...。

このときはじめて、彼を怖いって...。

「...せんぱ...ぃ。」

金縛りにあったように動けないでいた。

やがて、彼がまたこちらへと顔を向けようとしたとき、

私は、目を逸らした。

鼓動が早くなって、冷や汗がでる...。

いやだ...、

こわい。

...。

そして、逃げるようにその場をあとにした。
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